『ネト充のススメ』が相変わらず面白い。海外では「MMO Junkie」なんて呼ばれてますがしかし、落ち着きのある上田麗奈の演技はいいなあ。
ぜひとも視聴をオススメしたい『ネト充のススメ』は、お互いの認識がテレコ(死後)になった性別が作品のキモの部分。だから「男である、女である」を画面上に押し上げる意味も込めて、林の髪の色は男らしいカラーの青系であり、リリィの髪色は女らしい赤系なのである。それはタイトルのカラー配分にも表れている。いまさらのドヤ説明お許しを。
来年1月から放送予定の『ダーリン・イン・ザ・フランキス』も男女パートナーの関係性が物語のキー要素になりそうで、こちらは男女の青と赤だけじゃなく色収差の表現もついている。「光」「速度」とかがシャレオツに繋がってくるかも、なんて想像中。
これも楽しみですねー。
振り返ること数ヶ月、8月ごろだったか、求人雑誌『an』との企画で本作のアフレコ要員を募集する求人がありましたが、応募だけでもしておくんだったなーといまさらになって後悔してます。採用された方々は最終話に少し登場するらしく、そのあたりも先の楽しみにしつつ観てます。羨ましいなー、いいなあー。
【アフレコ超バイトのレポート記事】
スクリーン・ディレクションとは何か
以前、『プリンセス・プリンシパル』を振り返るエントリーのなかで「江畑諒真の絵コンテ回はディレクションが曖昧になっているような感じ。俯瞰した画が欲しい」的な、なんとも不敬なことを言ってました。へへ。
ここでのディレクションとは「スクリーン・ディレクション」のことです。
ディレクションとは「方向」という意味です。馴染みのあるところだとディレクターとかで使われますね。プロジェクトの舵を取る/方向性を定める、そんな役職です(大雑把
その「スクリーンディレクション」が画面のなかでどういった”はたらき”を持っているかという話ですが、
「○○がほにゃららするときは常に一定の方向を向いている(べきである)」
といった画面整理のためのガイドルールがあります。
絶対規則ではないですが、一手間入れることですごく見やすくなります。
人員が入り乱れる戦場を例にしてみましょう。
戦場での撮影
人物が入れ乱れてしっちゃかめっちゃかになるような戦場でのシーンを撮る場合、兵士がみな同じような格好、兜などで顔の判別もつかないような状態だと誰が誰かわからない。
そこで、「自軍の人間は右に向かって攻めるように撮る=右に攻めているのは自軍の人間」という作品内ルールを設ける。敵が攻める場合は左に向かうことになる。
(自軍→ 〈戦場〉 ←敵軍)
というガイドを視聴者に提示します。
『プライベート・ライアン』冒頭の上陸シーン。撮影については立地条件も影響しますが、(ひとまずそれは置いておいて)自軍は左から右に進行しています。
次に敵軍と鉢合わせて対峙するシーン。
一枚目が自軍、二枚目は敵軍なのですが、三枚目の画像が自軍か敵軍か──ちゃんと話を聞いていたなら判断できるかと思います(イマジナリーラインの概念も少し混じってます)。
これがスクリーン・ディレクションによる画面整理術。
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スクリーン・ディレクションを利用したポジティブ/ネガティブ表現についてはこちら。
統一による整理
上の例題のように、
- 複数人が同一の行動をする場合
- あるいは同様の行動を複数回おこなう場合
これらのディレクションを統一化(グループ化)することで画面はきれいに整理され、観客にもいまの状況がわかりやすく伝わります。
この統一感を逆に利用して、イレギュラーの暗示とすることも可能ですね。
いつもと違う、みんなと違う、という演出が「これはイレギュラーの示唆では?」と思わせる。
アニメ『ネト充のススメ』における S・ディレクション
「方向の統一」ことスクリーン・ディレクションは、本作のどの部分で見られるのか。
サムネイルのとおり、リアルワールドにいるプレイヤーがゲームをしているときです。MMO外にいる”中の人”を撮るとき、ですね。
中の人たちがMMOをプレイしているときは、全員が左を向いています。
5話までで”@家パーティ”面々の中の人の顔も明らかになってきていますが、偶然部屋の配置が左から撮りやすいようになっていたわけではない。意識的な配置である。
この点に注目。
PC越しショットが比較的多く、次いで真横から、ときたま真後ろや正面からもキャラクターを撮るが、右か左かで分類すれば、基本的には左向きだ。
こうすることで彼女たちはゲームの外側の人間であるということがすぐにわかる。
リバースショットを計算したMMOキャラ配置
MMOキャラ同士の会話がメインである本作ですが、ときたま、MMOキャラの発言に”中の人”がダイレクトな反応を示し、そこを撮る……といったカットのつなぎも見られます。
リリィさん(MMO内)の発言に盛岡森子(現実世界)がトキメく、みたいな。リバースショット風味のつなぎ方。
この場合も、中の人・森子は基本的に左向きでタイピング中なので、リバースショットを完成させるため発言者・リリィは右を向いた状態で発言する配置にする。リリィが右を向いていない状態なら、中の人の部屋に飛んだときはまず森子の背中を撮るなど、左向きと左向きで画面が続かないように計算されたつなぎ方になっている……感じがする(未検証
(※人物の配置関係がわかりやすい引きの画などの場合は除く)
キャラクターの見分け強調
もうひとつリアルとゲーム内のキャラクターの線引として、リアルのプレイヤーはなにかと地味だ。クラウドやスコールみたいなゲームキャラじみたのが現実にいられるとそれはそれで困るけれども。
「林さんの相方になりたいんです」の第3話
「ああ、丁寧な仕事だな」としたり顔で観直していたら3話で逆向きのシーンがありました。法則破れました。心なしショック。
↓↓
リリィさんに相方になりたいと告白されるシーンです。キュインキュインしましたね。蝶々が舞い飛んでいくのがうっすら見えました。
この逆向き構図がイレギュラーへの誘いなのかどうか。どう解釈すれば筋を通したまんま心が傷つかずに済むのか考えてみたんですけど、うまく納得できなくて……。
で、思いついたのが、
『何か大事〈おおごと〉なことを告げようとしているリリィさんを前にして、森子は林のプレイヤーであることを忘れ、この瞬間、林と完全に同一化してしまったのだ説──』
……。
弱い。弱いけど他に思いつかない以上、残された選択肢がどんなにあり得なさそうでも云々。
あとはもう少し単純に、反転した構図でインパクトを誘った。実際に、山場的な? ターニングポイント的な? そういう場面ですし、アクセントとして逆撮りが選択されたのではないだろうか。書いてて苦しい!
視聴その後……追記
3話にはもうひとつ俯瞰ながら右側から撮ってるのがありました。
わりと平板なシーン。もうだめだ、辻褄が合わない。途中までうまく言えてる手応えがあったのに……。
さらにその後、第6話にて櫻井さんががっつり右向きでPCを操作しているカットがありました。
もうほんとに……いままでの私の分析()はなんだったんだろう。
恥ずか死んじゃうのはこっちですよ! と言いたい。
で、また往生際悪く考えたんですが、
「彼(彼女)はゲーム外にいる”プレイヤー(中の人)”ですよ」という認識が観客に十分伝わったのならディレクションのルールから弾いても問題ないよね?
……とこんな線引がなされているんじゃないでしょうか?
ずっと同じ向きで固定するよりは、アングルに変化を持たせると描き方の幅も広がりますし、よりキャラクターの愛らしさが引き出せるんじゃないでしょうか? ね? ね?
ね?
そんな感じで〈『ネト充のススメ』で改めて考える「スクリーンディレクション」の効果〉でした。
おしまい。
『ネト充のススメ』、傑作です
本当に今年の推し作品、本編もOPもEDも、オールタイムベスト級の作品ですので、是非観てくださいな。
能登かわいいよ能登。
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