冬アニメを観ていて、POV(Point Of View:視点)の演出について書きたくなった。
「知ってる知ってる、『突然』とか『渇いた叫び』を歌ってたバンドでしょ?」(違います)
それはFOVです。
クラスのみんなが一斉に動いたからどうだとかTVシリーズ的なカロリーとか「粋だね」で片付けられる視えない超過労働とかの話は今回もしない。
POVショットとは、登場するキャラクターの「視界」を擬似的に再現して臨場感などを出す手法である。「見た目」とか「主観」とか言われるアレのことです。アクションゲームの話題などで聞き馴染みのある「FPS(First Person shooter)」の「ファーストパーソン」の部分は「第一人称(-視点)」を意味しているのだが、「本人の目線(本人が見ている世界)」という枠組みはPOVとほぼ同じと考えていい。
(※視点・視界・目線──と言葉のチョイスがごっちゃになってますが、「その人物が見ているもの」ってくらいのアバウトな認識でお願いします)
2カット目、鉄男に迫るひかりの目を通したPOV。(『亜人ちゃんは語りたい』第1話より)
改めて見返すと八の字振りがややオーバーな気も。
上の例で感づいた方もいると思いますが、POVで撮っている間は基本的には(※)そのキャラクターの姿はカメラに映りません。鏡や水面など、反射作用のあるものに向かい合ったりする場合を除いて。普段の生活で自分の顔が見えないのと同じです。
※ 下を向いたアングルのPOVで膝や指先が映ったり、前に伸ばした腕がフレーム(視界)に入り込んだりする例はあります。これはまた名称が異なります。なので、あくまで基本的には、としてます。
このテクニックの面白いところは、彼(彼女)がそのとき見ている景色・情報量を観客がそのままそっくり共有できる点。キャラクターに憑依している、といっても過言ではない。(いや、過言だ)
もうひとつ、ちょっぴり変則的なアプローチとして「無生物に命を宿すことができる」というのもあるけれど、それはヴォイヤー系に分類したほうが適しているかもしれない。じゃあわざわざ書くなよって話である。
見上げPOVとは何か
POVについてマスターしてもらったところで少し話を発展させるぞ。
キャラクターの見ている視界=画面のフレームになるのがPOVである。ならば仰向けに寝そべった場合、どういった画面構成になるのか考えよう。
あきら17歳の見ている景色を想像するのだ。(『恋は雨上がりのように』第2話より)
状況によりけりだが、二段ベッドの裏側が、天井が、木々が、空が、星が、宇宙が視えるはずである。
この限定的なアングルのPOVを「見上げPOV」と勝手に提唱することにする。仰向けで上を見る動作を「見上げる」と呼べるかは一考の余地ありだが、あまり深く考えないのが吉。グーグルで検索かけても近しいのがヒットしなかったので、スコットのごとく南極一番乗り! いえーい
「寝そべりPOV」とかでも別にいいんですけど、要は、このカメラワークが冬アニメで2つ出てきたぞと。重要なのはそこである。
『スロウスタート』第10話「サメのいとこ」
志温ちゃんさんと花名が将来のビジョンについて語らうシーン。現状に対する不安から顔を隠しうつむきがちの花名と、現状と将来を見据え力強く前を見る志温ちゃんとの対比がグレートだ。
POVになったタイミングで、布団がこすれる「ガサガサっ」ってSEがありました。体勢を仰向けに変えたんですね。言うまでもなくこれは志温視点のPOV。
じゃあ次。
『三ツ星カラーズ』第10話「雪すぎる」
雪ですべって公園で寝転がるカラーズ。
琴葉(青い子)視点のPOV。ちょっと琴葉の右手が写り込んでますが、まあ気にしない。
『スロウスタート』と『三ツ星カラーズ』の見上げPOV、大きく異なる部分があるんですが何か気づきませんか?
……。
そうです!(←ブログ書き方指南のうっとおしいやつ)
POVに入る前のカットに大きな違いがあります。
POVショットへの誘い〈いざない〉
ふたつの流れをテキストで確認。
スロウスタートの場合
横向きで話す志温をやや斜めの俯瞰で→見上げPOV→仰向けになった志温を正面からのアップで。
【註釈】
横を向いていてしかも目を閉じていた志温の「視線」では、観客に「見たくなる」を与えない。次のカットでPOVになり、観客は「お、これは志温の目を通したものだ」となるか、あるいは3カット目の切り返しになって「あ、いまのはPOVショットだったのか」となるのである。
三ツ星カラーズの場合
「こんなに雪はどこにあったのか」という問いに答える形で上を指差す琴葉→見上げPOV→並ぶ三人を横アングルから。
【註釈】
琴葉が空を指差した瞬間、指が示す方向(フレームの外)に何があるのか、観客は「見たくなる」のだ。
「カメラさん、もっと上。上を映して!」と思わせるその欲求と期待に応えるようにカメラは解答を──「曇った空」を撮る。
視線提示の有無
この視線誘導(というか”視線で誘導”?)がPOVショットを放り込むうえでの一般的な作法、順当なセオリーなのだと私は信じている。
POVの前には、「視線をおくる様子」を強調/提示し、観客に「その先」を意識させたほうが効果は大きい。キタノ映画でもデ・パルマでもそうだし。そのほうがシームレスである。
例えば『化物語』の第12話なんかでも。
阿良々木君の眼球アップに驚いた声をかぶせる画に始まり、後ろに引いていったところでカメラが切り替わり、満開の星空がどーんと広がる。眼球アップ&見開いた目により、観客は「阿良々木君が何かを見て驚いている」状況を理解し、自分も早くそれが見たくなる。この御膳立てがあるからこそ阿良々木君と一緒に満天の星空にカタルシスを感じることができる。という寸法なのだ。
じゃあ最後に。
見上げPOVの原典〈オリジナル〉はてんで知らないけれど、いちばん有名なのはやっぱりコレじゃないかなんて。
『新世紀エヴァンゲリオン』第弐話「見知らぬ、天井」です。
後ろにスーっと倒れ込む動作で、シンジの視線がどう流れていってるのか、非常につかみやすい。引きの画なのに。
おしまい。
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