【アニメ】カット、シーン、シークエンスの違いの整理【映画】

リズと青い鳥 みぞれ 演出・分析
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”通常の”映像を観るうえで覚えておきたい映像単位を大きく分類すると、

「ショット(≦カット)<シーン<シークエンス」

──である(※「通常の」と強調をはさんだのは、ワンカットで最後までいくタイプのものなどは大小の関係が逆転する場合があるためである)。

「ショット」と「カット」の呼称と定義が混同しているのは、もはやどうしようもないのかなと。意思の疎通ができるのなら、それでもいいかとも思ったりしてます……。

そもそもカットは和製英語だよみたいな意見もけっこう聞きますが個人的には、

  • ショット=被写体をどう撮るか(撮り方)
  • カット=被写体を撮ったもの(素材/フィルム)

という使い分け/考え方を支持したい。

「窓際に佇むヒロインをミドル”ショット”(←撮り方)でおさめた”カット”(←フィルムそのもの)みたいな疎通の仕方ができれば、細かいすり合わせは要求しない。「俯瞰のショット」も「俯瞰のカット」も映像は同じものになっていると思うからです。

しかし、ショットのほうがより「小さな要素」なのは間違いがないと思います。

さきほども言ったように、カットの尺度は大小様々、長短様々です。ひとつのカットのなかに複数のショットが含まれることはよくあります。長尺のズームカットなどが代表的です。

様々なショットについて学ぶならFilmmaker’s Eye』がたいへんオススメです。 

用語の定義や使い分けは推薦図書におまかせすれば万事OKなのですが、具体的に説明することで己の理解を深めていこうと思います。フォローミー(お付き合いください)。

DMM TVはアニメと舞台が強いですね

「カット」とは何か(「ショット」とは何か)

映画やアニメなど映像全般で使われる「カット」の意味を少し誤解してる人からの質問で

「1カットは何秒ですか」「1カットは何コマですか」

といった類のものをときたま見かけます。

簡潔に回答しておくと、「カットは秒数やコマ数に制限されるものではない」となります。

カットの単位じゃないんです、秒数やコマ数というのは。これは個人的な解釈とかではなくて、原則・定義として決まっていること。

もちろん、ひとつのカットに対して「このカットは何秒だ、何コマだ」と数を数えることは可能ですが、カットはフィルムの切れ目で増えていくものなので、1カットが45秒の場合もあれば、1秒に満たないカットがあることもザラであり、カットそのものの長さは副次的な要素であると思うところです。

つまり、あるシーンのカット数が知りたいとか、90秒のオープニング映像の総カット数が知りたいといったときに見るのはそこではないってことです。

見るべきはフィルムの切れ目です。

アニメには実物のカメラもなければフィルムもないですが(基本的にアニメの作成は”要るもの”だけ描くため)、カメラやフィルムを想定して描いているので同様のものとして扱います

カット数を数えてみよう

幼女戦記3話5
幼女戦記』第3話より

上のループしてるgifは、書類の束を振りながら歩く男のカットからスタートしてます。

この一連のアニメーションのカット数……わかりますか? 易しいカットが続いているのでわかりやすいですな(煽り

カット数は全部で5つです。

  1. 書類の束を振る男が去っていく
  2. それを見送る男の顔と、扉への振り向き
  3. 扉を押し開ける男の手のアップ
  4. スライド扉を開ける幼女(ミドルショット)
  5. 4からさらに後ろに引いて室内の外観

──この5つです。

カットを数える単位はわかりませんが、そのまんま「5カット」とか言うことが多いです。5番目のカットを指すときは「カット5(C5)みたいになります。

カメラで撮った映像を編集でつなぎ合わせていったひとつひとつの断片が「カット」です。

「ショット」の種類

上の説明で「ミドルショット」という言葉が出てきましたが、ショットの概念について考えるときは「どう撮るか」という視点、主にサイズ感への意識が重要です。

たとえば胸から顔までを映した場合は「バストショット」などと呼ばれ、

『こみっくがーるず』第4話
こみっくがーるず』第4話より

全身を映した場合は「フルショット」と呼ばれたりします。

『こみっくがーるず』第3話
こみっくがーるず』第3話より

胸や顔のおおまかなアップは「アップショット」

賭ケグルイ 蟲喰恵利美
『賭ケグルイ××』第1話より

もっと部位に寄っていくと「クローズアップショット(エクストリームクローズアップ)」と呼ばれます。

『美少年探偵団』第1話 瞳島眉美
『美少年探偵団』第1話より

クローズアップは目元や指・爪といった身体の部位に限らず、いまにも外れそうなネジ、火のついた導火線などの物体にもカメラが寄るケースも多いです。

あとは見下ろすような画面になる俯瞰ショットや、見上げる煽りショットなど、ショットはバリエーションが豊富です。

『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』第1話
終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』第1話より

『化物語』OP 戦場ヶ原ひたぎ
『化物語』OPより

人を映さず場所だけを撮って状況を補足的に説明する役割を持つエスタブリッシング・ショットなんてものもあります。

灼熱の卓球娘6話
灼熱の卓球娘』第6話より

ショットは素材ではない

繰り返しになりますが、ショットは「何をどのように撮るのか」という画角やサイズについての撮り方の領域の話。

このあたりの被写体とのサイズ感についてはアニメ「いもいも」の第3話を科学するの記事のなかで少し書いているので興味があればそちらも参考にしていただければ……。今回は余談に近い話なので割愛します。

単面的な「ショット」と多面的な「カット」

『リズと青い鳥』みぞれ
リズと青い鳥』より

たとえば、みぞれが髪をとく上の動画についてショットとカットを用いて言い表した場合。

ショット視点なら、「みぞれの横顔を左から・画面中央ちょい左寄りに・ミドルクローズアップ(-ショット)で撮る」──といった感じで、画面に写っている画的な構造/撮り方についての説明として「ショット」を使います。

そうして撮れたフィルム(画面)をひっくるめて言及するときなんかに「カット」を用います。

多面的とは?

カットが内包する情報は様々で、画的に「みぞれの髪をとく仕草を左からクローズアップで撮ったカット」とも表現できるし、物語上の状況から「のぞみ(吹奏部の仲間)と話しているカット」とも言えるし、動作をテクストとして考えると「自分のなかの感情を操作しようとしている(のが伝わる)カット」とも言い表すことができます。

「画面に映っているものすべて」がカットである、と。

だからショットよりもカットのほうがメタ的に上の存在のようではあるけれど、撮り方次第(ショット次第)でカットが担う役割や強度を殺すことも多々あるので、相互に支え合う関係だと思います。

「孤独感を表すための突き放すようなロングショット」といった表現もありますから。

 

これ以上は沼のような気がしてきたので次に行きましょう。

シーンとは何か

映像作品の構成要素を比較すると、「カット<シーン」の構図になるのが一般的なのですが、そもそも比べるべきものでもないというか、概念が別というか。

まず、シーンという言葉が使われる場合、何か行動(アクション)を起こしたり現象が起こったりする状態が画面内にあるはずです。

告白シーン、バトルシーン、襲来シーン、逃走シーン……。

シーンは「場所/舞台」を指す言葉であり、ワンシーン・ワンアクションが基本です(いろんな舞台を移動する逃走シーンもあるが、あれは「逃走経路」というひとくくりの長い舞台上でのアクションである。屁理屈ではない)

シーンのなかにはアクションが存在し、アクションは大抵多くのカットで構成されています。

アクションはカットの集合で作られる

ゆえに1シーンはいくつかのカットで構成されている、という不等式「カット<シーン」の説明のつもりでしたが、ご理解・ご納得して頂けたでしょうか。

もちろん、ひとつのシーンをワンカット──いわゆる長回しで(フィルムを切らずに)描くことも可能ですし、そういった映像作品も多数ありますので、あくまでも一般的な基本の考え方ということでひとつお許しを。

大切なのは、カットとシーンでは、言葉の指す範囲/モノが大きく違うということ。

触れたいのはシーン? それともカット?

例えば人に感動したポイントを伝えるときに「犯人が涙ながらに罪を告白したシーンが良かった」とか「ヒロインが溺れるシーンにハラハラした」とか、そういった具合に言葉にしたりするんじゃないかと思います。

「犯人が罪を告白したカットが良かった」「溺れるカットにハラハラした」はあまり言わないと思う(言う人は言う。が、それはより詳細にいたる話の場合で、そもそも言いたいことが違うと思われる)

犯人が罪を告白するシーン(仮)のなかには、犯人の顔のアップだったり、そばにいる刑事の姿だったり、波打ち際や崖などの背景ショットに事件当時の回想など、いろいろなカットが出てくるでしょう、おそらく。

そんななか、「犯人が罪を告白したシーンが良かった」と言われても、犯人の泣き顔にぐっと来たのか、被害者の妹の軽蔑する顔に惹かれたのか、もっと大味な物語の部分、犯行動機ややるせない事情に心打たれたのか。そのどれでもないのか、ふんわりとしかわからないわけです。

「昨日のパーティ良かったね」と言われても、スピーチに心打たれたのか新婦のドレスが美しかったのかビンゴ大会が楽しかったのか、いまいち判断ができない。パーティが楽しかったのだけはわかる。それと似たようなものです。

ストーリーとしての感動なら、カットだショットだと言わずとも「〇〇のシーン」でそのざっくりした範囲、とくにここ! と限定しない一連の流れを指して使えば問題ないと。

ただ、「この泣き顔がいい」「ここの3コマ走りがいい」「この撮り方でBGMにこの曲を重ねてくる意味がさあ……」といった場合、一歩入り込んでカット単位で言及/説明する必要がでてきます。

また沼になってきました。

シーンの連なりがシークエンス

カットからシーンへと枠が広がり物語のパーツも大きくなってきたのですが、シーンとシークエンスは物語の観点を踏まえつつ考えるとわかりやすいかと思います。

物語(を語る)上で「いまどういった状況(あるいは場面)なのか」に対応する解答が「こういった状況(シーン)です」と言えるかどうか。

そのシーンのひとつひとつはどういった目的を目指しているのか、どういったテーマの一部なのか。と考える。

スパーリングをするシーン、ランニングをするシーン、生卵を一気飲みするシーン……これからを束ねると「トレーニングのシーンの集まり」ができあがる。

これをトレーニングのシークエンスと呼んでもおそらく問題はないけれど、物語上この過酷なトレーニングが伝えたいものは、単なる筋トレ描写やボディではないはずで、「自分を奮い立たせてワンサゲンしようとしてる主人公の姿」こそがここで表現しているものであり、称するなら「再起のシークエンス」みたいな使い方がより適してるんじゃないかと。そうなるとシークエンスっていうのはいわば「手続き」に近いのかもしれない。

 

こうして世間に誤用が広がっていくのかな……なんて不安を感じつつ一旦筆置き。

そんな感じで〈カット、シーン、シークエンスの違いの整理〉というお話でした。

おしまい。

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カットの概念や込められた想いや効果について思いを巡らすのもオツだと思います。

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※本ページの情報は2024年11月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください

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