早乙女ちゃん、かわいいなあ。「なんなんだよぉ、こいつぅ」がすこぶる良い。ドンドン借金増やして顔芸ギャグポジションを己のものにしてほしい。
(『賭ケグルイ』に限らず)アニメが漫画と決定的に違う部分は、「コントロールが効かない」こと。
展開や説明部分で理解ができない場合、漫画の読者は手を止めて後ろに戻ることができますが、アニメもとい映像は常に前へと動いているので「ちょっと待って」が効かない。まあ基本的には、です。
そして本作『賭ケグルイ』の「投票じゃんけん」に話を移しますが、こういった見慣れない新感覚ゲームが始まるような作品(『LIAR GAME』や『カイジ』『嘘喰い』など)は、ルールの提示パートが必要で、ゲームホストや対戦相手がそうった役目を担うのが定石です。
”イカサマ”でいかに裏をかくか、いかに看破するかの駆け引きに旨みのあるジャンルであり、ここで説明されるルールは大前提として正しくないといけない。全貌は明かしてないけど嘘も言ってない、というよくあるやつですね。
でも鈴井くんが第1話で投票じゃんけんの詳細ルールをナレーションふうに説明するときの理論がまったく納得がいかないというか「はたしてそうか?」と思うんですよ。
投票じゃんけんルールおさらいと鈴井くんの”補足”
- クラスのみんながグー・チョキ・パーのどれかの絵を書いて箱に投票する
- プレイヤーは投票箱から3枚ずつ取って自分の手札にする
- 手札から1枚ずつ選択してじゃんけん勝負。3回あいこの場合はノーカン
これがワンセット。
賭けるコインの枚数を決めるタイミングは1の前。つまり賭けコインが決まってクラスメイトは投票を始めます。
視聴者が概ねの流れを把握したところで鈴井くんによるこのゲームの分析。
「①3枚引いて全部の選択肢が得られるなんて稀だ。②3枚しか引かないんだから、グー2枚、パー1枚みたいに偏ることのほうが遥かに多い。もし、③自分の手札にグーが多ければ全体的にグーのカードが多い可能性が高い。……④ということは相手もグーを出す可能性が高いから、こちらはパーを出す。だいたいそんな、不確かな読み合いのギャンブルだ」
アニメ『賭ケグルイ』第1話より(番号は私が付け足しました)
ふーむ………………
なんで?
なんでそうなる?
ネタバレになりますが、鈴井くんはこのゲームにイカサマ要素が介入していることを初めから知っていました。だから”現在イカサマがはたらいている状態”を踏まえた視点からのモノローグだったなら①②までは事実その通りになるでしょう。要は「アクロイド殺し」ですよね。古典ミステリの。ニクいね。
でも真っ当なシャッフルがなされた場合、3枚引いてダブリを引くか引かないかに大きな差はないんじゃないか。「稀だ」と言い切れるほど偏りが出るのか?
3種類出てんじゃないの、これ?
というかもっと早い段階で「確率の話をしてるんだからカードの総数を最初に言えよ」ってのがありますよね。「クラスのみんな」がそもそも何人なのか分からないんだから。
この絵で判断しろっていうのですか。
鈴井くんの”補足”への物言い
のちに分かるクラスメイトとカードの総数は30枚だったのですが、仮に「グー3枚・チョキ15枚・パー12枚(計30枚)」のバラ付きでも自分の手札が「グー2枚 パー1枚」になることもあるんでしょ?
カードを引くシステムには誰も介入していないのだから。
じゃあ そのグーグーパーの手札から「③自分の手札にグーが多ければ全体的にグーのカードが多い可能性が高い」という推測は、てんで間違ってますよ鈴井くん。間違ってる云々よりも仮説として考えるに値しない。弱すぎる。鈴井くん弱すぎ。
- 投票箱にグーが多い → グーを多く引く。これは成り立つ
- グーを多く引いた → 投票箱にはグーが多い。これは成り立たない
むしろグーの残数が減ったと考えていくほうがまだ微々たるもんだが有効なんじゃないかな。
まあ言っても「アクロイド殺し」なんでね……。しつこい。
「①三枚引いて全部の選択肢が得られるなんて稀だ。②三枚しか引かないんだから、グー2枚、パー1枚みたいに偏ることのほうが遥かに多い。もし、③自分の手札にグーが多ければ全体的にグーのカードが多い可能性が高い。……④ということは相手もグーを出す可能性が高いから、こちらはパーを出す。だいたいそんな、不確かな読み合いのギャンブルだ」
鈴井 涼太
③が部分的に正しい場合には④が成り立つ余地はあります。「場にグーが多い」が事実なら相手にグーが流れる可能性は確かに増します。 高いと言えるかは……どうだろう。
グーが流れる確率は高いとしても、初手の思考としてグー以外のカードがある場合にグーを出すかは完全に別問題。真っ当なシャッフルであれば自分の手札から相手の手札は予想できないわけですから。
鈴井くんが結んだように、このゲームは不確かな読み合いである。不確かを越えて無意味といってもいい。
読みは無意味の運否天賦ゲーム
介入の難しさそのものが公平さそのものであり、ネットの上のテニスボールよろしくギャンブルの魅力である。と、そういうことらしい。
その魅力を踏みにじるイカサマを仕込んだのが、明日のミケ──早乙女 芽亜里です。
かわいいなあ。
投票じゃんけんのイカサマを好意的に解説してみよう
ラストゲームの前に芽亜里本人から種明かしが。
実は全クラスメイト30人のうち21人が買収済みとのことで、21票は早乙女芽亜里のコントロール下にあります。
そして、芽亜里はグーとパーの配分を10対11で投票するようにコントロール。
実際には協力者である鈴井くんの出す合図に従うようになっていて、その合図を早乙女ちゃんも一緒に確認ができる、みたいな流れだと思いますが(ラストゲームのときの絵だと「投票してはいけない」の意味でのチョキの構え、だったのですね)。
あまりしっかりした説明がなかったのでなんとなくの予想ですが、おそらく21人のなかには、Aグループ(11人)とBグループ(10人)がいたのです。クラスのオリジナルゲーム、と言っていたくらいですから、それくらいの根回しは可能でしょう。
- Aグループは鈴井くんの手に勝てる手を投票する
- Bグループは鈴井くんの手に負ける手を投票する
(鈴井くん-y)(鈴井くん+y)みたいなもんですね。
これでグー11枚パー10枚の状況が作れます。
原作ではグーの握りでした
原作はもう少し詳細が書いているかなと確認してみましたが、カードの配分が数字ではっきり書いてある以外大きく違いはありませんでした。
原作では、夢子がどう気づいたか説明するとき、鈴井くんはグーの握りでした。
原作からアニメに移る際に修正が入ったのかもしれません。
グーの握りでも、
- Aグループは鈴井くんの手と同じ手を投票する
- Bグループは鈴井くんの手に勝つ手を投票する
で成り立つは成り立ちます。
(鈴井くん)(鈴井くん+y)みたいな?
投票じゃんけんのイカサマの仕組みは理解しましたが……
なるほど。指示系統の流れはわかりました。しかし、やはりこのゲームはまだまだ「胴元が勝てるゲーム」には遠く及ばないと思います。「まず負けない」などはとてもじゃないが言えないのではないか。
というのも、まず種明かしのときの芽亜里の発言。
11対10でグーとパーがたくさん入ってると言ったあとですね。
芽亜里「つまり今回はこんな感じ。チョキはほとんどない」
原作でも「グー14:チョキ3:パー13」──確率的にはこうだろうという都合の良さげな数字が出てきます。
つまり30枚中21枚がグーorパー確定で、残り9枚が等しく3枚ずつに分かれるから確率的にこうなのだと言ってる(のだと思います)。
でもそれはそこまで強く信じられるものだろうか。チョキは最大で9枚入る可能性もあるわけですよ。
十回のコイントスで「裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏」が出る確率も「裏表裏裏裏表表裏裏裏」と出る確率も同じなんですよ?
そこに勝負を託していいのか?
9枚/30枚だったら「ほとんどない」ってレベルじゃねーぞ!
クラスメイトの心理
ここで買収されていない9人の心理を考えてみましょう。
9人は一部のクラスメイトが買収済みなのを知っているのかどうか。もし知らないなら特別な意思は持たないので検証は終わりです。
次に知っていたとして、
- 協力者のサインの意味を知っているか否か
- 早乙女ちゃんに負けて欲しいと思っているか否か(ゲームを妨げないカードをちゃんと書く、を前提にしておきます)
2つの条件を満たせば投票カードによる場への介入が可能です。裏切りも協力も可能。
もし、協力者のサインが理解できて早乙女ちゃんに負けて欲しいと考えているなら。グーとパーが大半を占めている状況での選択肢は
- グーかパーどちらでも良いので、結果としてグーとパーのみの箱を作る。あいこも想定しつつ、より多くパーを引いてもらい蛇喰さんが勝てるよう祈る。単純な戦法
- チョキを量産し、初手でパーが堅い早乙女に対して、勝てる手であるチョキを蛇喰さんの手札に入る確率を上げる。しかしこれは早乙女手札にもチョキが流れる可能性が上がり、異常を悟られる可能性もあり?
要するにチョキをどうするかが問題。
9人は意見交換ができないのでどうしたって散ってしまうと思います。囚人のジレンマでもないけど、全員一致示し合わせてこそ効果が出る策なので。だから結局この9人のカードは、不定に落ち着くことになりそうです。
新たな疑問として早乙女ちゃんは手札にチョキが来たらどうしていたのか。
二枚きていたらどうしていたのか。これはまあいいか。
ふたたび早乙女心理へ戻る
「ほとんどない」と言い切った早乙女ちゃんですが、不定についてはどう考えるのが最適なのか。やはり9÷3で3枚ずつでしょうか。
A(グー3、チョキ3、パー3)+(グー1、パー20)
B(グー3、チョキ3、パー3)+(グー20、パー1)
可能性としてあり得るBの場合、4枚あるパーを2枚引いたようにチョキを1枚引くぐらい十分あるはずなんです。無視して切り捨てられないくらいには。
ほとんどない、と言っているので少なからず間違いで引いてしまうことも想定はしています。一応は。しかしその後の「仮に引いたとしてもチョキを出す確率はもっと低くなる」はもう全く意味がわかりません。なぜそうなる? 手札の「3分の1」を計算したのか? んなわけない。
チョキを出さない理由は、相手がパーを出さないと判断するからか?
裏返せばグーで負けてしまうかチョキであいこになってチョキを破棄してしまうから(長期戦を望んでるとか舐めプとかは ナシにしていただきたい)だとすると、パーを出してこないと蛇喰さんが判断した理由はなに?
ともかく「ほぼ」とか「まず(負けない)」とか使っているので、そういう埋めきれない穴などを鑑みるに、このイカサマは全くもって必勝法ではない。
それは早乙女芽亜里も把握している。必勝ではなく勝率を大幅に上げるのみ。
可能性は低くても、存在していればそれでいい
芽亜里のイカサマに気づいていたことを夢子はあっさりと伝えます。いわばカウンター、手の内をここで明かしてしまう。
ここから夢子のギャンブルがようやく始まります。
イカサマを暴いて両者の有利不利をフラットにして、外部介入なしの(読み合い要素はあるけど)運否天賦の状態に組み直して、賭けに出る。
これが蛇喰夢子もとい『賭ケグルイ』のギャンブル美学なんです。
縋るべき必勝法というものはない。カイジみたいに「道」はないんです。
冒頭で書いた「イカサマに旨み、逆手取りに旨み」系統の作品ではないですね、おそらく。訂正します。
ギャンブルとはなんぞや? ってのはまた今度考えるとして……。
そんな感じで『賭ケグルイ』1話でした。
鈴井くんとの会話中のネタバラシで出たあの手鏡。あんなものプレイ中はおろか教室での挨拶から一度もフレームインしなかったじゃないですか。キーアイテムなんだから描写してくださいよ。うまく裏の裏をかいてやりました、のカタルシスが不足するじゃないですか。若者のカタルシス不足。
おしまい。
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