『日本アニメ(ーター)見本市』のほうは観てません。なので作品への前情報もなく……先日の前半後半の2本を観て、という感じです。
(※終盤の話の流れについても言及するので、未視聴の方にはネタバレになる部分もあると思います)
ちょうど「キャラクターの行動原理」の話なんかを友人としてたのでいい機会になるやも。
では、『龍の歯医者』に登場した死なずのブランコと”キタルキワ問題”について。
『龍の歯医者』、こんなお話
キャラクターの行動原理の前に、大まかに物語の前提を説明しましょう。
この地には龍と呼ばれる空飛ぶ飛行生物がいて、国に危険が及ぶと力を使い国とその地の人を守ってくれます。これははるか昔、人と龍の契約が交わされていたからだそう。そんな強大な龍ですが、歯が弱点なのです。虫歯に弱い。なんだそりゃ、ジャストファック!
そして、おそらく契約のうちなんでしょう、龍の歯に湧く虫歯菌という生き物(微生物?)を駆除したりと歯の管理をしている人間がいます。それが「龍の歯医者」たちです。
「龍の歯医者」は誰でもなれるわけではなく、ある通過儀礼が存在しています。それは「死ぬ」というイニシエーション。死んでからが儀礼の本番なのですが。
一度死んだ人間が選定され、龍の歯から生まれて龍の歯医者になる。
そしてここからがキモ。龍の歯医者たちは「自分の死期」が察知できるという特殊性を備えています。
この能力のようなもの──作中では「キタルキワ」(漢字で書くなら「来る際」になるのか)と語られますが、死期を誰に打ち明けるでもないまま、みな普段の生活や歯の掃除をしています。そして、ときに穏やかに自身の死を迎えます。
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──と、本作のキモに関わってくる「キタルキワ」についての説明が終わったところで、主題「ブランコってなんだったのか?」について気になったことを書いていきます。
過去が謎の男、ブランコ
一方で件のブランコは地上にいるセルパナーダ軍に雇われた傭兵部隊の隊長。
主人公・ベルが地上にいた頃の同隊メンバー。口数少なく不機嫌そうな顔のとおり、腹のなかに何か秘密を隠しているように見えるキャラクターでした。
彼をピックアップするシーンでは、銃弾の雨のなかで一度も被弾しない彼を見て周りの部下も「彼には弾が当たらないんだ」みたいなことを言いました。オー.ジーザス
のろのろと歩いていたり、ときには突っ立ってたりしていても一向に被弾しません。これはもう何かの加護でも備わっているかのよう。
これは何かあるな……と視聴者は思いますね。
「キタルキワ」が導く予想と期待
となると、観ている側の私たちは「この人もキタルキワが実装()されているのか?」と思いますよね。元歯医者、あるいは龍から降りてきた人間なんじゃないか?
そう思うわけで。
そう思わせるところなわけで。
キタルキワがあるから「この戦場では死なない・死ぬ場所はここではない」という思考のもと、ブランコは銃弾の雨も恐れることなく立っていられる。まあそういうことなんだなと。『ファイナルディスティネーション』シリーズの終盤でみられる自分の番じゃないから無茶が通せるあのテイスト、あれに近いのかなと。
ふんふんなるほどな、と予想を深めながら彼の行く末を見守ります。
ブランコ隊長は「実はオレも元歯医者でな、」みたいなことは一切言いませんし、おそらく、地上にいる兵士や帝国の人間はキタルキワの存在をそもそも知らないのではないか。視聴者と龍の上にいる人だけが知っている情報(の前提で進んでいたはず)。
殺戮虫とキタルキワ
話は進み──。
強大な龍の力を支配しようと目論んでいたセルパナーダ帝国軍は、なんとか龍への侵攻を果たします。ブランコ一行が乗ってきた飛行機は不時着し同乗者が負傷するなか、ブランコに傷を負ったような形跡は見られません。
「ほらほら、やっぱり……(キタルキワが……)」
確信めいたものが観客の心に浮かび上がるところですね。
一方そのころ、ある虫歯菌が暴走し巨大化します。それはさながら『もののけ姫』のオッコトヌシ様のようで地上の兵士の首をスパンスパンっ! 蹂躙していきます。
それを見ていたベルと野ノ子は死体の山のなかに生きている兵士もいることから「この殺戮虫(と呼ぶ)は殺意を持った人間だけを襲っているんだ」というパターンを見つけました。
そして、主人公のベルと龍に乗り込んできたブランコが長い階段の中腹で対峙します。
二人の語りから、地上でのベルの死はブランコが深く関わっていたことを視聴者は知ります。ドラマチック。ブランコが「銃を持っても引き金を引けない腰抜けビビリが上官だとやってられん」とそう言ってベルを手に掛けたわけでね。『紫電改のタカ』花田上飛曹みたいなやつです。
ブランコはなおも勝ち気な様子というか、死を全く予感していない。そういう表情が視えない。私たち観客は「ああ、ここでもないのか」と。
「じゃあ、一体こいつをどうやって倒すんだ? この場面をベルはどう掻いくぐるんだろう」
そう思いますね。
ベルは銃をブランコに向けますが殺意を持ちません。しかし銃を向けられたブランコはベルに対して殺意を芽生えさせてしまいます。すると、ぐわーと殺戮虫が寄ってきてブランコの
首が……と。
本人も予見してなかったほどにあっさりと死んだことにより、「あれ、キタルキワの設定は?」なんて考えが浮かぶ。風呂敷が畳めてないとか伏線が回収できてないとか投げっぱなしジャーマンじゃないかとか放棄せず、観客は考えます。
これはミスリードだったのか?
考えられる可能性は
- ブランコにはキタルキワが実装されていなかった
- 実装はされていたが、殺戮虫はキタルキワの持つ”際”を捻じ曲げるほどに強大だった
要点をブランコとキタルキワに合わせるとこうでしょう。
ところが、そのどちらかなのか、”正解”は提示されない。
何から何まで明言しちゃったり説明しちゃったらお話にならない。物語は途端につまらなくなる。観客の想像力が物語を面白くするものなのです。
私は1だと思ってますが。
作者・舞城王太郎ですし
馬鹿にしている気は一切ないので。ほんとに。
「坊主とは話が合わねえ」ババババッババ──なんて舞城らしくて好きですし。「肺に血が溜まって息ができなくて僕は死ぬ」なんかも実に舞城王太郎なセンテンス。
舞城王太郎だし、って回答は、作品を観るスタンスとしては絶対的に不真面目だと思いつつも、『好き好き大好き超愛してる。』『煙か土か食い物』『世界は密室で出来ている。』『九十九十九』『スクールアタック・シンドローム』なんかを読んで、私としては「理由とか全てに意味を見出すのは、もうよそうよ」なモードになったりします。
「なんでルンババって名前なの?」に対する解答とかいちいち要るかな? そういうもの・そういうこともあるよな、でいいじゃないですか。
なんといいますか、「そこじゃないんだよな」って感じ。
ともかくブランコは元歯医者でもなければ、キタルキワも実装されていなかったと私は判断しました。普通の人間だったと。ちょっとおかしくて理解し難い普通の人間だったち。
じゃあ、”死なずのブランコ”はなんだったの? 銃弾の雨はなんだったの?
なんでもなかったんじゃないですか? と私は思う。たまたまこれまで被弾しなかっただけ。アンチミステリ、アンチノベルズってそういうものだったのではないですか?
という思考の末、「舞城王太郎だし」ってひとつの回答を持っているわけです。
サツリク虫の猛威にはキタルキワで視える”際”も捻じ曲げるほどの強大で凶悪で恐ろしいパワーがあったのだ、っていう線もありっちゃありですが、あんまり舞城王太郎っぽくはない……気がする。
「龍の歯医者は死人の集まりなのか」って地上での噂についての確証を持ったのが、ベルと野ノ子と地上で会ったときなので、あの時点でブランコは龍についての情報を噂レベルでしか持っていない以上、龍の上にもいったことないだろうし、(知らないふりしていた可能性は残るけど)キタルキワは持ってないと考えるのが道理では。
だからやっぱりなんでもなかったんですよ。理由なんて。
おしまい。
舞城王太郎アニメ、これが良かった
『龍の歯医者』でストーリーが良かったなと思った方は、原作者である舞城王太郎が原案:ストーリー構成をやった2020年の傑作『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』をぜひチェックして欲しいです。
こちらもSFでかつミステリィ。
>DMM TVで『ID:INVADED イド:インヴェイデッド」』を見る
やっぱり舞城王太郎は掛け合いの妙が魅力ですね。
おしまい。
関連リンク
アニメ『龍の歯医者』公式サイト
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