アニメで見かける”ジャンプカット”について考えていたことがあったので、ちらっと覚え書き。結論とかオピニオンは特にないです。
ジャンプカットとは──
撮影技法と編集技法、両者の違いは「撮影時に行うテクニック(主にカメラの扱い)か、編集時に行うテクニック(主にフィルムの扱い)か」このラインで二分しています(パン、T.B、アングルは撮影技法。ジャンプカット、リヴィール、ワイプなどは編集技法。こんな感じ)。
しかし、この分類がどこまで市民権を得ているかは不明なので、鵜呑みにしないようご留意。
これがジャンプカットです
説明下手な私が言葉だけで説明してもあまり有効ではないですし、実例を用意しました。百聞は一見にしかず。『青春デンデケデケデケ』から。
アニメでもジャンプカットは頻出します。
これがジャンプカット。観れば「ああ、これね」となるでしょう。「京アニがよくやるやつね」そうです、あとで京アニのも出ます。
昔は名称も知らないので「大林宣彦がよくやるキング・クリムゾンみたいなやつ」と呼んでいました。
偶発的だったゴダールのジャンプカット
最初に誰が考案した技法かと訊ねられると、ジャン=リュック・ゴダール──作品なら『勝手にしやがれ』(1959年)──と答えるのが教科書的回答。
ジョルジュ・メリエスのジャンプカットの使い方は現在の”それ”らしい省略的な観点のものではなく、ステッキが椅子に変化する・宇宙船がこつぜんと消失するといった超高速を目的イメージにしたようなもの……らしい(作品を観ていないので分かりかねる。不勉強で申し訳ない)。
本筋と言われるゴダールのほうに関しても、フィルムのカットはゴダール本人による発案ではなく、撮影した『勝手にしやがれ』のフィルム尺が長すぎたためにプロデューサーから尺の短縮を命じられ(海外はプロデューサーが裁量権を持っていることがベーシック)、仕方なく内容を損なわない範囲で部分部分を省略した結果ジャンプカットの始祖なるものができあがった、というエピソードがまことしやかに語り継がれているのである。
この偶然の産物、なかなかに面白くて後に数々の監督にインスパイアされて現在にも脈々と受け継がれています。
アニメと実写の撮り方(作り方)の違い
映画(≒実写)におけるジャンプカットとアニメにおけるジャンプカットは、視えている画は限りなく近しいですが、作り方のアプローチが大きく異なります。
卓球台を挟んで睨み合うまでの画を実写で撮ると想像してください。
実写の場合、ツインテールの女の子が台の奥まで歩いていくところをワンカットで撮ります。
そのあとで途中の歩いている部分を3箇所ほど間引けばジャンプカットの画が完成します。全体から引き算が行われるわけです。10-1-2-2=5……のような感覚。
一方、アニメの場合は、最初から「5」を目指して、「1」とばして「1」……と使うところだけを描きます。完成時に使わないと分かっているカット(最終的に省かれるカット)を描くのは原画や動画セクションに大幅な無駄コストが生じるので、絵コンテの時点で必要なカットのみのコンテを指定で書き、本番で使う箇所だけ発注/依頼します。効率的ですね。
両アプローチに通ずること、そしてジャンプカットの大前提として、「元は繋がっていたひとくくりのアクションの流れ」であったことを想起させないといけません。最終的には「5つの点」だけを見せて観客に10を想像させます。これ大事。北斗七星とか、そんなイメージ。
余談:youtuberのはジャンプカットじゃなくてただのカット編集
「ジャンプカット」で少し調べると、youtuber指南書()みたいな記事があって、
「『あー』や『えっとー』みたいな隙間は観客の機嫌を損ねるからどんどん切るべき」
と書いてましたが、その意見はいいとして、それをジャンプカットとか呼ばないでください。それはただのカット編集でしかないから。ただのパッチワークです、それ。
話が逸れた。
ジャンプカットの効果
ジャンプカットの映像効果は、第1はやはり時間の跳躍と省略、テンポやスピード感に訴えかける役割が大きいと思います。
第2に「反復作業の強調」を演出したいときにもジャンプカットが用いられることがあります。これはどちらかといえば少し細分化した「ジャンプカット・シークエンス」などが担う範囲に近づいていく──というか反復の強調にはそっちのほうが適しているように思う──ので、別枠扱いにしたいところ。しかしジャンプカットはジャンプカットである。

「反復作業の強調」にならんで副次的な演出かもしれないですが、”省略”編集の手を入れてしまうほどに長時間同様の作業をしている、のような見せ方の場合もあるかと。残した部分を見る考え方と省かれた部分を想像する考え方の違いでしょうか。
ジャンプカットについてあらかたの情報は掴んだと思われるので次のステップに。
ジャンプカットはFIX系のカメラワークが多い気がする
FIXとは”固定”という意味で、カメラを動かさない撮影法です。ステディカムなどではなく三脚などを用いて撮るため、カメラを置いて撮影したような画になります。要は、カメラが動かない≒フレームの構図が動かないとの理解で概ね正解かと。
監視カメラの映像やニュースの始まりに差し込まれる街を一望するようなアングル、あれがFIX。
5m21s~、連隊で進行する戦車をやや長くFIXで撮影。カメラの立っている様子が想像できますでしょう。
「カメラが縦に揺れてんじゃねえか」って?
これは画面動(画ブレ)と呼ばれるもので、「横切る戦車の振動がカメラにも伝わっているね、臨場感が出るね」って演出です。X軸やY軸で調節して動かすのです。
ガルパン作品内の戦車に乗っての対決シーンは車内も車外もカメラマンが立っている(と仮定される)場所は振動が付き物だったので大半が画面動処理を施していました。たいへんな作業。
画面動には、衝撃をより強く見せるために勢いづいて動くものや、不安/焦り/逡巡などを表すじんわりとした動かし方もあります。
どうしてジャンプカットの際にFIX系が多いか、そして引きの画が多いのかについては、(比較すべき)周りの情報を観客に観せないと、ジャンプした感触が伝わりにくいからかな? と思っています。大きく激しい動きのなかでジャンプカットすると気づきにくいですし。
以上、画面動とFIXのかんたんな説明でした。
京アニのジャンプカットを見る
私のなかの「the 京アニ演出」は、ぐるぐる台座大回転でもなく、スミアでもなく、ジャンプカットなんです。近年はピン送りや被写界深度の浅さなどのレンズ周りもよく囁かれていますが、ナニワトモアレ(”京アニの”というよりは京都アニメーションに属している誰かの、がより正確な気もします)
『無彩限のファントム・ワールド』放送当時、第1話のOP明けに速攻でジャンプカットが出てきたもんだから、「お待たせ! みんなの京都アニメーションが帰ってきましたよ!」なんて挨拶代わりの一発にも思えました。
ソレワサテオキ。
これが第1話のジャンプカット。
さきほどの卓球娘のgifとの違い、わかりますか?
『無彩限のファントム・ワールド』のほうには”画面動”がつなぎ目に入っているんです。
これを「画面動」とカテゴライズ/呼称するのは少し気が引けるのですが、フレームが実際に動いているし他に言いようもないので、なんとなーくぼにゃりと受け止めてください。「背景ずらし」でもいいかもしれない。
画ブレが入っているジャンプカット
『響け! ユーフォニアム2』第6話のメイド服での組体操のカット
これは1回しかカットの切り替えがなく、あまりジャンプカットの面白みがない。やはりジャンプカットは3回から5回くらいの跳躍がセオリーか。
つなぎ目はFIXのまま切るんじゃなくて、カメラが僅かに左に動く。そして2枚目にジャンプ。ホイップパンのスタートっぽい動き。
3人や観覧者がブレるショットを1枚挟んでいます。こうしてカメラが左を向いた/向こうとした動作を作っています。
あるいは、『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』(制作:サテライト、C2C)の第1話。
「終末なにしてますか?」のほうは、「迷子で街のなかをぐるぐると行き来」している様子をジャンプカットで省略しつつ、「歩く/探す」という動作を「反復」している側面もある。
階段をのぼる、卓球台に向かう、といった完結するワンアクションと比較すると、反復具合や性質の違いが理解しやすいと思います。こういった複合的なものはジャンプカット・シークエンスと呼ばれます。
その他
『血界戦線』も松本理恵コンテの回はジャンプカットを数度観ました。コンテを担当したEDも随所にジャンプカットあり。こっちは資料がないので各話数の詳細は確認できず、EDに関しては画面動はなく”完全固定”。その代わりにスポットライトの外ぶちがフレームの役割になってました。
ジャンプカット時の画面動、あり? なし?
で、話が前後しますが……
では「ジャンプカット演出にどうして画面動(フレーム調整)を挿し込んでいるのか」について考えてみると、第1の見当としては
- フィルムの切り貼り(つまりジャンプ)が如実に現れるようにカットにぶつ切り感を強調する
これがやはり一番の狙いなのかなと。
原画と背景(撮影?)は別セクションなので、カットごとにズレが生じてしまった、ということは基本的に考えられない。あればそれは一種の事故。つまりこれは作為的な画面動であり、フレームをズラシた意味と意図があるんです。
と、そこまではスムーズに推量がはたらくものの、そこから先は特に思いつかない。
「ここまではっきり大味でやってやらんとキッズは作画ミスとか言い出すからなあ」的な……そんなことが? すみません私の悪い選民癖がまた出てきました。
あるとすれば、そもそも制作側がFIXで撮っている感覚がなく、ステディカムでの撮影のような画面づくりを想定しているパターン。このパターンは可能性ありそう。
というのも、
始祖的なゴダールの『勝手にしやがれ』も、全編通してカメラマンがカメラを担いでの撮影だったので、常にフレームは緩やかに左右上下に揺れている。厳密な”FIX”というものがない。
そんなカメラ環境による撮影→ジャンプカット編集なので、出来上がったフィルムは画面全体でズレたような画になる。先程から口すっぱく繰り返している”画面動”の画に近いものがある。
尾行者を尾行するシーン。最後にベルモンドへフォローするカメラが最強。最強?
ゴダールはカメラによる制約があっての”背景ごとカット”でしたが、昨今のアニメにその制約はないので、動かす必要がないと言えば、ない。
ジャンプカットと画面動の向きを考える
そこで先ほどの「FIXとして撮っていないんじゃないか説」として、もうひとつ『終末なにしてますか?-』の第1話からジャンプカットをどうぞ。
こっちのジャンプカットは一連の「地図持って迷子アクション」の最後に、二人に「follow(:フォロー)」が入ります。フォローっていうのは、カメラが被写体をフレーム内に留めるためにカメラを動かすことです。カメラがキャラクターを追って、ズズズイッと左下に流れるでしょう、これがフォローの動き。
フォローするってことは(そこに限っては)もうFIXとは言えないわけで。手持ち感が出ているなあ、カメラマンの存在を意識してしまうなあと思ったりします。作為的なカメラに見える。
ただ、手持ち感/ステディカム感は出ているけれども、そのことによる「気持ち良さ」はあまり見出だせない感じ。残念。それならジャンプカットを仕掛ける最初からステディカムっぽく揺らしを入れるものアリだったんじゃないか? と思わずにはいられない。
キャラクターの移動ベクトルと画面動の向きを考慮したジャンプカット
「ここで切れてますよ」のための後押しとして画面動を併用していると思わしきジャンプカット諸々ですが、さすがの京アニと言いましょうか、ジャンプカット慣れしているのか、見事に構成が整理されています。
一条晴彦が歩道橋の階段を駆け上がります。断っておきますが彼は瞬間移動の能力者ではない(いまさら
フィルムが飛ぶタイミングですが、晴彦の動きは中腹で右へ移動し上りきる直前に左に振られます。
このキャラクターの動きに合わせて、フレームも右に行ってまた左に戻ってきます。ノートに手書きしたのがそれ。
画面動の動きが、キャラクター(被写体)の進行方向/重心移動への動きに沿うよう合わせているのです。おそらくはミリ単位でキャラクターの移動距離比率と画面動との比率が計算されている気がする。恐ろしい。
いっぽうの『終末なにしてますか?-』はどうでしょう(もういいだろ)。
キャラクターが奥に飛んだり手前に戻ったりのベクトルと、フレーム(背景)のズレる方向がマッチしていない。キャラクターが奥から中央へ移動しても、背景は左上に向かってブレていたりする。
だからなんだか観にくい画面に、ほんとにぶつ切りなだけのカットの繋ぎになってるように感じるんだと思うんですよね。ズラシの幅が『無彩限のファントムワールド』に比較すると少し大きいのも要因ではあると思いますが。
ジャンプカットについて書いたあとのまとめ
最初に言いましたが、なにか結論めいたものは提示できない。ははは。
強いてまとめるならば、
- ジャンプカットに画面動(背景ずらし)が併用されるパターンがあることに最近気づいた
- 京アニは被写体の移動ベクトルを踏まえたうえで画面動を行っている可能性がある
- 画面動をしなくてもジャンプカットは一般的に気づきやすい部類の技法だと思う
- 余談。フォローしながらのジャンプカットの参考資料として『勝手にしやがれ』を再見したけれど、ほんとに探していたのはウディ・アレン作品のなかのひとつだった
それをグダグダ書いてしまったわけで、またそのうちに追記訂正の嵐になるかもしれません。一旦はゴールにたどり着いた気も。
そんな感じで〈ジャンプカットについての諸々の考えまとめ〉でした。
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演出技法の名称もまったく調べられず楽しみ方も右も左もわからなかった頃に読んだ1冊。いまでは少々古くなった有名タイトル(ゆえにクラシック)を添えつつ演出の説明がされていて、いまだに読み返したりもします。
おしまい。
関連リンク
wikiページ<ジャンプカット><ジャン=リュック・ゴダール>
gifで紹介した作品(だいたいU-NEXTかアマプラで配信してます)
- 『青春デンデケデケデケ』
- 『勝手にしやがれ』
- 『灼熱の卓球娘』
- 『無彩限のファントム・ワールド』
- 『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』
コメント,ご意見など (中傷発言はNO)
現場では「フレーム修」と呼ぶのが通りよい表現かと思います
「画面ずらし」でも多分通じます
「画面動(画ブレ)」は指示の際に誤解を招くかもしれません
コメントありがとうございます。「フレーム修」という言葉は初めて知りました。