MdN届かないんですけど…… 届きました、月刊MdN10月号(2018)。良き良き。
ちな氏のインタビューも読み応えあり//
さてさて。
『ヤマノススメ サードシーズン』第10話の冒頭。
あおい達を映すカメラの前をサッカーに興じているクラスメイトたちが横切る。これ観た瞬間に、ちなさん来たのかな、と思いましたね。あれっぽいな、と。
『エロマンガ先生』の公園サッカーっぽいなと。
上手く言えないですけど、ちな氏の画作りってモーションに隙間を作ってる感じがして、ある人はそれをカクカクしてるとか言ったりするんだけどカクカクじゃなくてパタパタって感じがする。軽やかにキャラクターが動く。上手く言えないですけど
「あ、今回良さそう」ともう思わせちゃうファーストインパクト。
とにかく『ヤマノススメサードシーズン』第10話、絵から伝わってくるものがビシビシきてすごい面白い回でした。勝手に受信してるだけかもしれませんが。
短橋でのかばん持ち替えとか、入射光でだんだん明るくなるかすみ様のお顔とか、あおいのターンしながら手を振る動作とか。たぶん年間10選に入れることになると思う、くらいに見どころが充実した挿話でした。
シリーズを通してコーヒーが登場する機会も多く、今回のコーヒーの使い方(演出)に気になるところがあったのでそのあたりを少し。
意地を張るひなたとブラックコーヒー
家族との予定を勘違いしていたため、ぽっかり時間の空いた土曜日。
あおいに関して最近意固地になっているひなたは、間に合う可能性があるのに言い訳をこしらえて連絡をしない。ここで2回目のミルクを注ぐコーヒーのアップ。
(ややベタな手触りであまり使いたくはないけれど)「ブラック=大人びた、ミルク・砂糖=子供っぽい」の象徴であるならば、大人への憧れがブラックにあるならば。
ミルクを追加する動作(あおいのいうところの「ミルクはおこちゃま」)と、つまらない意地を張るという行為、このふたつの幼稚的行動をリンクさせた、そんな雄弁なコーヒーへのアップ一枚画。
線少なめ、陰とハイライトだけで唇のディテールを表現してるの素晴らしい。そして、手を大きく見せるのがちな氏らしい。
「フレームで撮る」という美意識
かえでの部屋での勉強会、せんべいとコーヒーという変わった取り合わせが出てきました。
ゆうかの下の位置にせんべい、かえでの下の位置にコーヒー。
「凸凹コンビのようで不思議な親和性のある二人」をなぞらえるアイテムとして、せんべいとコーヒーを用いる。こういった着想が思いつく人は、おそらく少なくはない。
「まるでかえでさんとゆうかさんみたい」とひなたが語るように(けっこう失礼じゃないか?)、この部屋のなかに存在する「奇妙なコンビ」というふたつの関係を一枚のフレームのなかにおさめています。まさにここしかないだろうってカメラの位置とアングル。
ちな氏の優れたところは、そのイマジネーションを最適化というか最大化した画面をつくる能力。すなわちレイアウト能力に秀でているんだと私は思っています。で、おそらくそれは間違ってない。
もしわかりやすくするために、せんべいとゆうか・コーヒーとかえで、なんて感じでカットをふたつにわけたとしたら……それはいかにも説明的だし辛すぎる醤油せんべいか甘ったるいだけのカフェオレみたいな画面になっていたかもしれない。
やはり大事なのは、奇妙でありながらも案外調和は取れている──そんなバランス感覚を示す場面なので、同一のフレーム内に対等にキャラクターを配置するのが美しいんじゃないかなと。背中にもたれてストレッチする二人の写真が差し込まれるのもバランスの強調だったりしそう。
ちなみに、さっきのブラックコーヒーが大人を象徴するアイテム論でいくと、ゆうかもかえでも飲むのはブラックコーヒーだったりする。なんなんだコーヒー。
セーラー服はいつか脱ぐもの
話は進み、かえでの勉強の理由が大学への進学のためであると、ひなたは知ります。
ティルト(カメラの縦の動き)で参考書をナメながらのひなたのカットなど、二人の間に隙間と距離を作っていく。
この部屋一連の絵作りで面白いのは、ひなたは制服と同フレームに収まるけれど、かえでは一度も制服と同フレームには入らないこと。
制服には「学生である」というステータスが付与していると私は考えていて、なかば強引につなげると「イコール子供(ノット大人)」なんてイメージまで持っていってもそこまでの無茶でもない。気がします。え? 大人なのに制服を着て踊っている人達がいるんですか?
制服と一緒にフレームインしない──制服と距離があるかえでは、すでに高校卒業の先、つまり将来を見つめており、成長と熟成のレールにすでに乗っかっていると見ることができます。ひなたはまだそこの域まで至っていないので、制服と同フレームに入ってしまう。
そういう対比構造でもあったのかなと。
明暗と心の赤信号
かえでの家からの帰路、偶然にもあおい達の背中を見つけるひなた。
「いい加減、声かけろよ」と視聴者の声(おもに私
ひなたを置き去りにするように前を歩くあおい達。彼女らには光が差し込んでいて、ひなたには大きな影が。駅の陰かなこれは。
ただそれだけではこのカットは終わらず、ふたりの立ち位置を明確にしている色の演出が使われています。それが真ん中にある、お店の丸看板。
赤と緑の丸……すなわち信号機のメタファーがここにあるのです。
赤信号と進め
緑信号に見守られるように前へ歩くあおい。赤信号は、ひなたのココロの停滞。これじゃ追いつけるはずがない……。残酷でシリアスなカットだと思いました。
で、この赤と緑の看板のお店ってたぶんモデルになった企業があって──ミスドとスタバなんですよね。熱いコーヒーが飲みたくなってきました。
お風呂での沈殿
ほつれ持ち越しのラストカット。
ここな家の台所よりも大きそうなお風呂もとい浴槽。
お湯のなかへ潜りあおいへの悪態をつく。誰にも訊かれたくない言葉を誰にも聞かれない場所で発する。
お湯に沈んでいくひなたが、再三登場したコーヒーに注がれるミルクと重なる、のかな。意図的に重ねてるんだと私は受信しましたけど。ひなたがミルクで甘ちゃんで子供だって意味に受け取りました。
ここまで!
ちなMADを観よう
くじアン……!
成長を描く禁じ手
サードシーズンを観てきて、時間も計算に入れた成長を描いているような気がしていささか不安。不安というか心配というか。
終わりと別れを予感させますよね。『けいおん!!』の「天使に触れたよ回」を思い出すような、まさか歳を重ねるとは思わなかった……みたいな。全然うまく言えてないけど。
OP冒頭のちびキャラダイジェストで、一期の第一話、ひなたがあおいを引っ張っていくシーンがありますけど、ED『色違いの翼』のジャケットはあおいがひなたを引っ張っている構図になっている。こういった「対の構図」を見てしまうと物語の収束──物語の閉じを感じてしまう癖がある。
脱線してしまった。
第10話すごい面白かった。
『ヤマノススメ サードシーズン』第10話
絵コンテ・演出:ちな
総作画監督:松尾祐輔 作画監督:今岡律之
以上、コーヒーとか成長とかの演出が好きってお話でした。つづく。
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