アニメ『戦翼のシグルドリーヴァ』第5話でイマジナリーライン(:想定線)を越えたカットつなぎがあったので少しメモと感想をさらっと。
第5話のお風呂場でオーディンの提案を知ったアズズとクラウが直談判に向かうシーンですね。
イマジナリーラインについてはこっちで。

基本スタンスは「引きの画面であればILを越えても混乱はしないし問題ない派」の私です。
その実証も兼ねて。あくまでメモです。
「シグルリ」第5話のイマジナリーライン越え
話しやすいよう、通常の状態のカットを「表カット」、ILを越えた状態を「裏カット」と一時的に定義します。お、裏に入ったぞ、みたいな。
・アズズとその後ろをついてくるクラウをフォローしていくカメラ……の次のカットから。
「どうやってオーディンと会うのか?」と指摘されて立ち止まるアズズ。立ちのバランスが不均等なのが、モーションの途中で「思わず」止まったって感じが出ていていいですね。全く考えていなかったというのがよく伝わる。
このカットのイマジナリーライン(:想定線)はこんな感じ。アズズとクラウを繋ぐ直線上にあります。目には見えません。
赤と青で二重線になってますが、平行に引かれた線が綱引きの紐みたいにまとめった一本になっている感覚で捉えてください。上手く描けなかった……。
イマジナリーラインを越えて「裏カット」になる
次のカットでイマジナリーラインを越え、「※裏カット」になりました。イマジナリーラインを越えてあっちからこっちにカメラが移動しているのがわかりますでしょうか?
イマジナリーラインのこっち側にカメラが来たのがわかるように線を引きます。
赤い線が手前に向いていた表カットとは違い、青い線が手前になっています(ひょっとして、ILの説明で二本のカラー線を用いるの、大発明なんじゃ?)。
イマジナリーラインを超えるのとは別に、このあと出現する劇場の扉から視聴者の目をきるために一旦壁を移さないようにしてますね。その結果、ILを越えたところにカメラがいる。
オーディンの介入の示唆としても解釈できますかね。
「IL越え=混乱や違和感」ではない
おそらく、このカットの繋ぎを観て、直感的に気持ち悪いとか観にくいと思う人は少数じゃないかと思います。IL絶対遵守主義者が嫌悪感を抱くことはあっても、まず混乱はしない。
その理由は、(カメラがILを越えていても)キャラクターの二人がしっかりフレームインした状態を継続しているからです。場所と二人の位置関係がしっかりしているから問題ないのです。
逆説的に言えば、違和感演出としてのILを行いたい場合は手始めにキャラクターをピンで抜くと上手く作れたりします。ばんばんIL越えていけ。
上映中のアップ、カットバック
次のカットはブザーとともに「上映中」の誘導ランプをアップに。
こういうふうにキャラクターからカメラを一旦外して、別の物体や風景や(別のところにいるキャラクターでも可)なんやにカメラを向ける演出は「カットバック」と呼ばれます。でもそうすると、別の場所に移ればなんでもかんでもカットバックになってしまいます。そうではなく、再度キャラクター(この場合はアズズやクラウ)にカメラが戻ってきてようやく「カットバック」が成立します。この往復がキモ。
おそらくまだ「裏カット」
「上映中」のカットが、「裏カット」か「表カット」はちょっと判別が難しいですが(:どちら側にいてもこのショットは撮影可能なため)、人間の脳は変化が感じられないものは「変化していない」と判断するものです。なので、都合のいい不合理に則って、裏カットが続いているとしましょう。些事です。
扉の出現に驚くかわいいアズズ(とクラウ)
このカットで「表カット」に戻っているのが確認できました。再びイマジナリーラインの手前が赤に。つまり最初のこっち側にカメラがいます。
意を決したアズズとクラウは扉に向かいます。
このローポジローアングルのカメラも実は「裏カット」。このカットでもう一度、ILを越えてきたのです。
ローポジアングルの演出の狙い
アズズたちの顔の高さからだいぶ離れたところにローアングルでカメラを置くことで「見ているぞ」感が強まり、まるで扉そのものが意思を持っているかのような、館山基地全体がオーディンの監視下にあるような、若干の不気味さと圧が漂っています。虎穴に踏み込んでいく直前の若干の躊躇。ローアングルにはそんな「待ち構え」を感じます。圧……。
広角のレンズ
もうひとつ注目したいのは、このカットのレンズが広角になっていること。
次元の歪みをともない現れる(と解釈しています)オーディン劇場が放つ「歪み」表現でレンズを変えた目的がひとつ。
もうひとつ考えるのは、オーディンが待ち構える扉の先に向かうアズズの決心を表す演出として「踏み込む足を大きく見せる」という選択をしたのではないだろうか。
キッと結んだ口元や目のアップ、拳を握りしめる、など様々な表現の選択肢があるなかで、足を力強く見せる選択。そのための広角でもあると。そこまで大げさでもないけども。
演出分析に正解はないので予測の範疇ですが。
とそんなことを考えた『戦翼のシグルドリーヴァ』第5話のワンシーンでした。
第5話「館山基地合流遊撃隊!」
脚本:長月達平 鈴木貴昭
絵コンテ:大畑清隆 演出:井上圭介
作画監督:橋口隼人 野間総司 石川洋一 総作画監督:矢向宏志
おしまい。
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