『ド級編隊エグゼロス』のED映像が、すこぶるいい。
10程度(おそらく13cut)のカット数の少なさ。無茶をせず、できる範囲の力を適したベクトルで発揮する省力加減。
第2話が初お披露目でしたが、今年ベスト級に「上手いぜ!」と唸りました。
何かと癖もあり、まとまりもあった第2話本編の上々の出来もさることながら、いわゆる「GET WILD型」のアプローチ(本編のお尻からED曲のイントロが流れ、その高揚感とともにEDアニメーションが始まるアレ)は見事にツボを押さえていました。
(第2話がそうだっただけで、次回以降がどうなっているかは不明)
リピートを生かした”なびき”や寝息芝居のここが気持ちいいぞ、というポイントを書いていきます。
では始めます。加隈亜衣の歌唱は相変わらずいいなあ。
リピート作画を活用した静的な動き
性的と静的がかかっているのだ。
まず、スカートのなびきが映し出されるファーストカットから「おっ、これは」と思わせる気持ちよさがありますね。
話が逸れましたが、スカートの気持ちよさでした。
気持ちよさと言うとすこぶる抽象的なのですが、スカートのなびき──”はためき”と表現したほうがいいでしょうか。この”はためき”という現象を描くことを考えた場合、近代的な基準値と比較すると、枚数が少なめだと思うんです。
スカートのなびきは枚数が多くなる傾向にあるというか、観衆にはわかりやすく”書き込み”を示せるパートであり、作画パワーを注力するには持ってこいじゃないですか。
藤原書紀のスカートやリコのスカートを基準にしてはいけないとは思うのですが、それにしても雲母のスカートの枚数は少ない。
しかし、ただ少ないわけではなく、それでいて動きにメリハリがあり、こじんまりとはしていない。つまり省略が上手い。この絵があれば動いているように見えるというポイントに確実に絵を置いていく。
近年のよくわからない間をツメツメに詰めた細かい連なりが「ぬるぬる」と賛辞される風潮とは逆のポジションにいるような。私はこっちのが断然好きです。
はい、気持ちよさは残像と省略です。
リピート作画の良さ
そして、冒頭でも言いましたが、EDはほとんどがリピート作画なんですよ。そこがまたいい。同じ絵を繰り返すことで描き分ける枚数そのものは多くならずに済む。今回この記事を書こうと思った原動力です。
リピート作画とは、数枚の絵(原画や動画)をぐるぐると繰り返し並べていく作画。
「1,2,3,4,5,6,1,2,3,4,5,6,1,2……」という具合に原画(や動画?)のブロックを繰り返し、実物の枚数よりも大きな効果を生むことができます。散髪屋さんの前でくるくる回っている3色のサインポールが上下に動いているように見えるのと同じ原理ですね。
この「H」のクルクルや周りのピカピカエフェクトとか、
セクシーな歩きのカットもリピートを回してます。
同様に、次のカットではセクシーキュートなコスチュームが、さらに次カットは髪の毛が風に揺られていますが、ここにもリピートを用いた省力が効いています。
次。
キック(バスドラムの音)のリズムに音ハメした、明暗転。
これは線画は1枚ですが、音と連動させて色をパカパカと入れ替えることで動きがそこにあるように見える。決して「静止画、止め絵」とは思わないんじゃないでしょうか。
この煌めき十字は戦闘服にあしらったデザインロゴだったのだが、髪の揺らぎカットからこのカットまで切れ間を感じさせない繋ぎで遠ざかっていくイエローこと星乃雲母。圧縮が上手い。
ここまでが歌い出しまでのイントロにあたる部分。
カット数で言えば、5カット。
歌い出しからも省力された作画は続く
教室の寂しげカット。
動いているのはカーテンと雲母の髪、ネクタイ、スカートのみ。
これも2ストロークぶんリピートしているのですが、リピート作画に耐えうる現象描写といいますか、吹き抜ける風とカーテンの関係を物理的に考えても、特に不自然さは感じられない。もう少しカーテンの動きにランダム性が生じるはずだというリアリティを重視した意見もあるでしょうが、些事です。
髪やネクタイが揺れることも同じく。
実際に動いているのは右足だけ。
右足の動きから彼女の思索や逡巡のようなものがなんとなく垣間見える。
右足のアクションには軌道上いくつか重なる部分もあり(前半の引いた足は往復だ)、カロリー自体は少ない。足を戻すときにやや外向きに開くのがGOOD。
そしてBメロ。なぜかでかいボールギャグが公園に埋まっているのだがそれはともかく。
まったく動かなくなる時間があるカットなのですが、「止まってんなあ」とはあまり思わない(人による、のかもしれない)。
その要因として考えられるのは
- これまでのカットごとの尺が長く大きなものだったので、観客の気持ちが落ち着いている
- イントロからのテンポ感を精算するAメロ、キックの数を減らしたBメロと、リズムの感覚がどんどん後ろに伸びている
- 教室のカット、足元のカットから「何か物思いにふけっている」様子が伝わり、同様のアクションとして観ている(動きを要求しない)
これらのどれか、あるいは相互作用によって動きのない画面も退屈しないし意味を感じ取れる演出がなされていたのかな、と私は思いました。
キャラクターは(大きく)動いていないが、時間はたしかに動いている。
故に止め絵とは思わない。そんな意識です。
さて、手をのばすカットは飛ばしてサビに行きましょう。
サビのループ感はlofi-hiphopのサムネイルのよう
サビに入ると再度リズムが心地いい速さとなり、キックに合わせてスリープモードっぽいXEROギア(腕に装着しているアイテム)の表情が変わっています。少ないエネルギーなのに、動きは長持ち。素晴らしい。
サビでのアクションをブロック分けすると、
- 「寝息を立てる口元、肩のあたりが上下」のリピート
- 「目が覚めてウォッチを確認、再度眠る」アクション
この2つ。
このワンセットのブロックが、サビの小節と密接にくっついているわけです。サビも大きなブロックが2回繰り返されます。
そして、小窓ワイプのようにサイズが変化し、制作委員会がどん。キレイだ。
終わってみれば、サビ頭のカットがEDのラストカットだったという、最後まで長尺のカットで走り切るあまり例のない作りなんじゃないかと思うのです。すげーよ、すげーよ。
が、私も観たサンプルは少ないので、断定はできません。でもきっと珍しいよ!
で、だ。
この寝息・目覚めのループ感をどこかで観た覚えがあったのですが、lofi-hiphop radioのサムネイルがこのテイストに近いのでは? とビビッときたんですよ。動画再生中の映像はサムネイルって言わないんだろうとは思うのですが、他に言い方を知らないのでサムネって言っちゃいます。
動きはあるが動きすぎない画面。いつまでも観ていられる。というか、ずっと観てなくてもいい。そんな画面。
絵コンテの藤木かほる氏、初めてお名前を知りましたが、もしかしたらこの辺りのアンビエント系動画のエッセンスをエグゼロスのED映像に取り入れてはいないだろうか。
『ド級編隊 エグゼロス』EDアニメーション
絵コンテ/演出:藤木かほる
総作画監督:山本亮友 作画監督:廣冨麻由 原画:米田博司
背景:三宅昌和 前塚太一 撮影:project No.9撮影部
物思い×女の子の魅力
女の子が物思いにふけってるといったED映像で『素敵な小夜曲』(frm.『ママレード・ボーイ』)、『ロマンティックあげるよ』(『ドラゴンボール』)などを想起したので確認しましたが、ビビッとくるほどの類似点や共通項は発見できませんでした。時代性なのか、動きが小さいというかカメラはFIXが基本で、背景美術への負担のバランスがいまとはけっこう違うなと。機会があればこのへんは掘っていきたいです。
おしまい:タイムシートとか読めないけどね
当方、タイムシートも読めない弱小アニメ視聴者ですので、比喩で使うのもあんま良くないんだろうなという気持ちが少しばかりあるんですが、まあ綺麗なんだと思うんですよ、タイムシート。
阿部寛の公式webサイトのコードがすっきり綺麗だとか、アイツの辞書には一言〇〇って書いてるだけなんだ、みたいな単なる比喩です。
カット数も少なければ、動く線も少ない。枚数だって多くはないでしょう。おまけにほとんどがFIX(カメラが移動しない)の画面なのです。
でも面白い。アイデアでここまでできるんですよ。
と、変な予防線を張って、しれっと終わりにしたいと思います。
おしまい。
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