感じたのは懐かしさ。
あの時代の空気を含んで、咀嚼して、吐き出してはまた吸い込んで、ついぞ誰も口にしなくなった「セカイ系」の息吹が2017年にして再度吐き出された。息を吹き返した。
その昔、突発的に湧いたセカイ系への定義論争から始まり様々な論旨や過去作品への分析はしかし一方で、その作品の特性ゆえかファンの声のデカさゆえか、一部では煙たがられました。作品外部にまで広がった、作品外部まで内包してしまったセカイ系ムーブメントは消費されてゆっくりと第一線を退いた……観があった。個人的な感想ですが。
時は流れ「セカイ系」の別解釈、というよりはあきらかに誤用・曲解の類の文言などを見るにつけ、ぷるにえ氏の発言から随分と経ったんだなあという思いと、歴史なんてものは簡単に変容するということを改めて思い直し、生唾を飲み込むような不甲斐なさを感じる。そもそもが定義揺れをずーっと伴っている言葉ではあったわけだけども。
そんなアニメ史を超えたサブカル史のうえに燦々と輝いた「セカイ系」系譜のランドマークである『最終兵器彼女』を経て生み出されたであろう作品『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』(原作:スニーカー文庫)の第1話がすこぶる良かったよって話です。
見よ、この「セカイ系」フレーバーを
ポスト『最終兵器彼女』をもう少し噛み砕くと、
という意味合いで大きく外していないと思います。あんまり自信ない。
芸術論の範囲で「ポスト〇〇(作品名)」という言葉が出てきたときには、そのときの文脈にもよるがだいたいの解釈としては「〇〇の影響下にある△△」と理解するのが最適な解ではないでしょうか。
その証として『終末なにしてますか?-』には、『最終兵器彼女』および本作品にみられたセカイ系フレーバーが色濃く点在していて、かつ自覚的に『最終兵器彼女』の後継であるという意思表示すら窺えたのである。
つまりつまり、『終末なにしてますか-』は「さいかの」なくして生まれてこなかっただろうし、それの足跡を自ら表明していたことでより強い説得力をもたらした。そういうことですね。
2000年に刊行された高橋しんの漫画『最終兵器彼女』はセカイ系を語るうえでマストな一作。「セカイ系」のみならず「ゼロ年代」におけるメルクマール的な作品でもあるので、やっぱりマスト読破。
第1話にみる『さいかの』の名残り
フレーバーというくらいなので、明確に「ここだ!」と挙げるのはちょっと難しい。出発点からして「なんだか『最終兵器彼女』を思い出すなあ(ウキウキ」程度だったので、半ばでっち上げに感じるかもしれない。
いくつかある共通項・類似点をあげてみよう。
女の子が戦地に向かう
まず、女の子が戦う。戦地へと向かう。まだ向かってないけど、まあ向かうでしょう。身体こそ兵器というのも通ずる要素ですね。
ポイントとしては、”強制的”に戦地へ「送られる」という点に注目したい。
戦う女の子自体は今や取り立てて珍しくない。昨今は記号的な性差をコンセプトデザインの面から入れ替えただけのものとしての”戦う女の子”が散見されるが、あくまで物語上の戦う女の子、戦う運命を背負った女の子というのがキーポイント。
不足した外部情報
舞台規模がどうなっているかがセカイ系の範疇にならうものかの判断材料になる。両作品も対峙している存在が不明(『終末-』はまだ一話なので謎なのは当たり前ともいえる)。
非セカイ系との分岐点は、
- 外部が存在するが詳細はわからない(セカイ系)
- 外部がない。あるいは存在するが詳細もある(非セカイ系)
戦っている理由さえも不明であり、仲間の規模、敵の規模も不明。肝心の部分に観客は触れられないまま物語の進行を眺める他ない。副産物でもあり意識的でもある「省略」が横行するのだ。
そこには常に大きな謎が横たわる。
「彼女たち(彼たちは)本当に戦う必要があったのか?」の疑問なくしてセカイ系は語れない。
舞台規模といえばもうひとつ。作中の世界は現実世界に沿った世界とは違うテクノロジーが存在することもセカイ系の特性の一つだといえる。従来のセカイ系と『終末-』が少し違うと感じる部分としては異種のキャラクターと少なからず共生していた文明があること。
なんだかいつの間にかセカイ系の特徴の話になっていて『終末-』の内容と逸れているかもしれない。アニメ一話しか観てないのでご勘弁。
ともあれ、
- 作品世界全体への不透明さ
- 兵器と自称し戦場に立つ女の子
- 自己内面への言及
などのセカイ系センテンスがちりばめられていることから、私は『終末-』はセカイ系なのだろうと判断したのだが、冒頭のパートのみでそれは十分にうかがえる。
もしかしたら「導入としてのセカイ系」とか「セカイ系的な導入」と言い換えたほうが相応しいのかもしれない。ヒロインが放つ「世界一幸せな女の子だ」という台詞がある以上、言い逃れは出来ないと思ってたりもするんだけど。
展望台の「さいかの」オマージュ
一話のド頭にモノローグがあって、過去(メイン軸の現在)の話に戻る流れも『最終兵器彼女』に重なる。さいかのでは語りはシュウちゃんだけど。
極めつけとして、これは意識してないわっきゃないなシーンが、OPのあとの街を一望できる高台です。
『最終兵器彼女』でのメインの場所と言っても過言ではないあの展望台。
第1話の展開は、なぞってるとしかいいようがない!
どうです、これは意識してますね(パクリとか微塵も思っておりませんよ)。
このなぞりから『終末なにしてますか?-』が『最終兵器彼女』のあとの作品、ひいてはそれを受けて生み出された作品であるうえで、比較されるのは承知のうえで、これからどういった物語を展開していくのか。私気になります。
おすすめです。
関連リンク
TVアニメ『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』公式サイト
(『最終兵器彼女』の公式サイトは閉鎖してなくなったようです)
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