松坂大輔・斎藤佑樹が出演した『キリン一番絞り』のCMがイマジナリーライン越えをやっているとのことで、本日観ました。
動画の公開からすでに2ヶ月経っているのですが、私が知ったのは本日付けTwitter経由ですので。そのあたりご了承ください。
なにはともあれ、未見の方はまずは先入観を持たないように意識して(無駄だが)動画を観てみましょう。60秒バージョン、120秒バージョン、13分バージョンがあります。今回取り上げるのは60秒バージョンです。
はい、ぎこちないと感じるところがあったでしょうか。なんてことない和やかな良いCMだったでしょうか。そもそもイマジナリーラインってなんだよって感じでしょうか。ちなみに、60秒バージョンはトータルで1分となっています。
本記事では、このCM動画のイマジナリーライン超えがどこにあるかの検証と、意図があるのかどうか、さらには編集の事情なんかを想像して整理したものです。大してうまくいってないので、整理を目的とした記録です、くらいにしておきます。
二人の視線を元にイマジナリーラインを想定する
イマジナリーラインもとい「想定線」。海の向こうでは「180度ルール」。
ここはイマジナリーライン(省略してIL)で統一します。
腰を下ろして向かい合い対談するという配置、二人が移動しないかたちが主軸になる画を撮る場合、冒頭の動きがある松坂大輔の登場カットを除けば、考える想定線は着座してからの二人の視線をイマジナリーラインに想定します。なぜ視線を採用するのかというと、動きがない画面においてもっともベクトルを生み出すものが「人間の視線」だからです。
真ん中にある赤と青の二重線がイマジナリーラインです。イマジナリーなラインなので、実際の映像には映りません。イマジナリーラインに善悪や正誤は特にないため、線を隔ててこっちとあっちをオモテとウラで便宜的に区別しています。
この条件をふまえてカメラを回すと、オモテ側で撮るか、ウラ側で撮るか、あるいはイマジナリーライン上で撮るかの3パターンにおのずと分類されますね。
下のgif画像はそのマーク付をしたものです。青い丸がオモテ側、赤い丸がウラ側です。
カメラがイマジナリーラインを行ったり来たりしているのが、理解できますでしょうか? 特に一度だけ向こうに移動するカットは、見ていてキツイものがあります。
CMであれ映画であれ、イマジナリーラインを超えているのか否か、超えたことで良い効果が出ているか否か……このあたりを基準にして個人的にアリナシを判断しています。超えてるからダメ、と何でもかんでも一蹴するわけではないですが、「わざわざ超える意味ありました?」というのは問いかけていきたい。
カットやらショットの分析でもしてみるか
斎藤佑樹(以下、斎藤)が座敷で誰かを待っている、現れたのは松坂大輔(以下、大輔)である。
冒頭の迎えるカット一連。
まず、CMの企画の発進として「松坂大輔が現れる、それを迎える斎藤」という絵が欲しかったと思うんですよね。だから、入り口から現れる大輔を前から撮れるよう、カメラは下の図①の位置にいました。
それに加えて上座下座の慣習がありますね。それに従うとあの店内のレイアウトや出入口の関係から二人が座るポジションはあそこで適している。
さらに上手下手のシキタリも考慮すると、後輩で聞き手の斎藤が左で、インタビュイ的な役回りかつ先輩である大輔が右にいるのはおかしいことでもないと思います、私は。
このあたりの事情からレイアウトの構築や計画が破綻し始めている、と言えなくもないですが、ともかく大輔が座敷に上がるまでを撮り、次のカットに。
この構図、この配置、この画角が本CMのメインであり主軸です。これ以後「メインのカット」と呼ぶカットは上のカットを指します。
このカットはすでにイマジナリーラインを越えたものになっています。主軸なのに。
メインのカットは④の位置から撮られていますから、前のカットから①→④とイマジナリーラインを越えたと言えるわけです。
ただ、メインのカットと言ってるくらいなので、このカットを基準と考え(オモテとして)対談は進みます。だから最初の4枚は「助走」くらいに解釈しています。ここからが本当の対談です。
またILを越える
グラスを合わせて乾杯したあとに、それぞれの一口をバストショットで撮ります。またILを越えてますね。
ウラ側からのリバースショット(切り返しショット)。
ここのIL超えは意味がわからないですね。意図が汲み取れない。実は大輔で下戸で、実際は飲んでないとか。下戸に出演を依頼するな。
反対側からでも撮れるのにそうしなかった理由というのが思いつかないです。リズムを変えたいとか、退屈さを解消したいとか、やりたくなるにしてもその選択肢としてIL越えを採用する理由はわからない。1回目の「飲み」ですし、15秒も経ってませんよ。焦り過ぎではないだろうか。
対等なショットサイズの切り返し
少し話は変わりますが、(階級や年功を越えた)対等な関係性を表現するときには、切り返しはショットのサイズを揃えるのがベーシックです。
バストショットからバストショット、クローズショットからクローズショット(顔のアップのこと)と切り返しをおこなえば、二人の関係性は釣り合っている状態を表現できます。
反対に片方はクローズショット、片方はロングショットとサイズが離れていくと、釣り合いは崩れた状態になっていきます。以上、余談。
俯瞰や引きの画を混ぜ込んだイマジナリーラインの越え方
カットはオモテ側に戻ってきました。話している内容は「松坂さんを小学四年生のときに初めて見て、あんな選手になりたいと思った」というもの。わかる。当時、私も小学四年生でした。
進みます。
「時間経過」のカットとイマジナリーライン越え
「練習って好きでした?」と別の話題に変わります。
さきほどの小学生時代の憧れの話もそうでしたが、本CMでは話題が変わるタイミングでIL越えを繰り出してきます。そこには意図を明確に感じます。
私の信条として、IL超えしたあとのカットも引きの画であればまあ基本的には大丈夫でしょう(大事故にはならんだろう)と思っているので、そのあとも越えた側で数カット続くここのIL超え自体は許容範囲です。
もっというと、このカットは俯瞰+引き+横移動+柱ナメ+IL越えという小技が入っています。むしろけっこう上質かも、なんて思ったり。
時間の経過を演出
ここで使われている演出効果で真っ先に浮かぶのは、「時間の経過表現」です。それも10秒や20秒ではなく、話題1つ2つ分くらいの時間です。いやそれ以上かも。
この「時間の経過」はメインのカットからただどちらかの顔にポンと寄っていく、くらいでは効果は出ないんです。そういうのは跳躍感がないんです。
ただし、IL超えを行わないとここでの時間経過の効果は得られなかったのか、というと必ずしもそうではないと思います。ほかにもやりようはあったでしょう。
空のグラスに寄ったショットを挟む、おかわりするカットを挟む。大笑いをして波を作る。時計を映す。ないない。
むしろ、時間経過を強く感じたのは、俯瞰+引き+横移動したカメラの3点セットのほうかもしれません。要するに観察映像っぽさ、ウォッチ感です。モニタ感?
これは柱ナメもかなり効いてます(再掲)。
はい次。
同じサイズ感でILを超えるのはやはり厳しいものがある
またオモテに戻ってきました。
さきほどの「練習、嫌いです(ワハハハ)」の引き画からダイレクトでILを越えたカット(しかもサイズ感が近い)を繋げているので、ここはもう少しなんとかしてほしかったですね。サイズを変えるとか、まったく違うショット(グラスのアップとか)を挟むとか。
あるいは完全にカメラのポジションを正反対にして、シンメトリーな反転を見せるとか、そういうのなら同ポジとして消化できたはずです。
「大輔さん」に変更した影響
さてさて話題は変わって、「今更ですけど『大輔さん』でもいいですか?」と斎藤からの提案。和やかなムードである。
ここで斎藤がまさかの呼称を変更したことにより、編集時の構成の組み換え作業にささやかな障害が生まれたのは想像に難くない。というか、そうだったらちょっと面白いなという願望です。
大輔さん呼び以降の話題を提案の前の話題に持ってくるのは困難になりますし、強引に押し込んだらハサミを入れる回数が増えてきます。せっかくの対談の文脈も嘘くさいものになってきます。60秒バージョンはその禁忌をすでに犯しているのですが。
「あのときのグローブ、持ってきたんですよ」とこれまた俯瞰+引き画+長押と欄間ナメのカット。
うん、やっぱりこの構図のショットと話題の切り口をセットにすれば、2回目だからという認知の影響もあるにしろ、時間経過は感じ取れますな。
で、次が本CMで一番良くないカット。斎藤佑樹のリアクションだけのカット。
これこそ、別の文脈だったリアクションのカットをインサートしたんじゃないかと疑ってるんですが、どうでしょう。流れからここだけ浮きまくりじゃないですか?
このカットだけILを越えていて、また次のカットでオモテに戻るわけですが、ほんとにいらないカットですね。オモテ側から撮ればよかったのに。
「これからの夢ってありますか」の一連のカット。全部オモテ側から撮ってます。
編集により文脈が変わってる問題
60秒バージョンでは「(将来は)野球場を作りたい」ということをお互いが思い合ってた(?)という流れのようになっていますが、120秒バージョンではその手前に選手時代の話をしています。
- 斎藤佑樹はライオンズの球場に行くたびに、今日は大輔さんいる? と訊いていた
- 松坂大輔は日本ハムが来るときは、今日、(斎藤が)投げるの? と訊いていた
これを経ての、
松坂大輔「お互いねぇ、思い合ってたねぇ」
という流れがあるんですが、これが編集で文脈を変えているわけです。信用ならないなあ。
あとはいい笑顔といい飲みっぷりと一番搾りが並んだカット。で、CM終了です。
おしまい:意図がわからないイマジナリーライン越えは困惑する
いつも通りの結果。いつも通りのふわっとした結論。
斎藤佑樹の、ヒーローを目の前にした高揚と浮つきをILを越えてわちゃわちゃした画面と早めのカットの切り替えで表現した、とか言えるには言えますが、このCMに斎藤佑樹の心情表現とか、要りますか?
わたしゃ必要ないと思う。まあ、個人の裁量ですよこんなものは。
ただ単に別にあった演出意図を汲み取れてないだけかもしれないですし。基本的に不毛な分析だったなと。
急ごしらえで疲れたので冷たいなにかを飲みたいです。
そんな感じで〈「キリン一番搾り」のCMとイマジナリーラインがどうたらこうたら〉でした。
おしまい。
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