『ヒドゥン』(1987年)を観ていたらカーチェイスのシーンが出てきまして、展開のつなぎ目としての「カーチェイス」ってかなり便利アイテムなんじゃないのかと思った次第です。
『ヒドゥン』という映画は、人間に寄生してその人物を操ることができる宇宙生物(『遊星からの物体X』や『スピーシーズ』のあの感じを想像して)を、ベテラン刑事とFBI捜査官のコンビが追い詰めていく物語です。SFアクションの傑作ムービーで、バディものとしても見所あり。
作品のなか、中盤に出てくるカーチェイスがなかなか良かったのです。
おや、どうやらフラッグが振られたようです。カーチェイスの話、GO!!(from 妻夫木聡)
カーチェイスの機能性とバリエーション
順番がごっちゃになりますが、カーチェイスにも色々あるので、カーチェイスって一体なんなんだろうというのを書いておきます。定義などではない。
まず、追う者と追われる者が存在しますね。チェイスとレースはちょっと違っていて、どこかに先にゴールするタイプの「競争」ではない。『デス・レース』とは違う、ということですね。
可能な移動距離と舞台への接続
さらにもうひとつ、「追いかけっこ」の機能性について。
逃走ですから、移動は必須です。その上で、次の舞台をどこに繋げるかを考えます。
人間の足のみの走りだと、移動距離がそこまで伸ばせませんし、(パルクール経験者でもないと)壁や有刺鉄線が障壁になります。空港の滑走路に繋げるとかは難しいのではないか。
電車を使うと路線というコースが決められて自由度が低い。駅を出てすぐに配置できる施設は限らえているのではないか? 炭鉱とか刑務所とか原発とかは無理か?
その点、車はそこそこ機動力が高く遠くまで移動距離が稼げますし、ハコとしての耐久性もあり、金網や鉄格子をぶち破ることも急勾配な道なき道を駆けていくこともできる自由度も有しています。
移動に関しては自由度の高そうなバイク・ヘリ・戦闘機も、ダメージにはセンシティブです。説明書を読んだくらいではすぐに運転できるわけでもないですし(バイクはそのあたりどうだろう)。
車が運転できるキャラクターに関しては「いやいや、なんで運転できるの?」という疑問が挟まる余地もほとんどなく、幅広い物語にカーチェイスを埋め込むことが可能である。
クルマって追いかけっこにちょうど良いのかもしれない──と、半ば無理やりにクルマを使うメリットを挙げてみました。
カーチェイスのタイプ
カーチェイスと一口に言っても、
- セーフティゾーンまで逃げ切る、またはそれを阻止する「ゴールテープタイプ」
- ゴールはなく、追っ手をまくことがミッション。または相手を捕まえることがミッションの「逃げ切りタイプ」
と、展開が大きく違う点だなと思いながらカーチェイスを観ています(2つのタイプは私が勝手に名付けています)。
「ゴールテープタイプ」のカーチェイス
「ゴールテープタイプ」は、追っ手からセーフティゾーン内まで逃げる視点に加え、セーフティゾーンの境界にだいたい時間制限みたいなもの(分厚いゲートが閉まるとか、建物が爆発で全壊するとか)が仕掛けられていて、タイムレース感が付帯することが多いです。一粒で二度美味しい。
ローランド・エメリッヒの『インデペンデンス・デイ』の宇宙母船から脱出するシーンなんかは「ゴールテープタイプ」と呼んでもいいでしょう。
ゴールテープをくぐればカーチェイスも終わることが多く、わりとシーンの決着はつけやすいかなとも。後続車はゲートに次々とぶつかって連鎖爆発。次のシーンは落ち着いたセーフティゾーン内から始まったり。
「逃げ切りタイプ」のカーチェイス
一方、「逃げ切りタイプ」はゴールはないので、畳み方は「追っ手を振り払う(無力化)・捕まる(無力化される)・クルマを降りる」になるのが定石ではないかと。あまり考えずに書いてます。
『アウトロー』(ジャック・リーチャー)がこのタイプに分類していいかな。
そして今回の『ヒドゥン』はパターンとしては、逃げるほうにはゴールラインがない「逃げ切りタイプ」でした。
『ヒドゥン』のカーチェイスの良さ
カーチェイスの配役は、逃げるのがストリッパー、追っかけるのが刑事コンビです。
宇宙生物にとってのセーフティゾーンというものはなく、カーチェイスが始まってからもとにかく追跡の手を引きちぎることが最優先。反撃もする。
「逃げ切りタイプ」を整理すると
- 逃げるほうの目的は、とにかく追っ手をまくこと
- 追いかけるほうの目的は、相手を捕まえる、無力化すること
でした。
無軌道さが生み出す、次の舞台の「偶然性」
重要なのは、とにかく逃げる行為が優先されるのでどこに向かうのが正解か、という視点がない。無計画で無軌道な逃走である。それはつまり、追手から離れるためならどこに行ってもいい。
「ご都合主義」という言葉が広まって久しいですが、そういった無理なお膳立ても必要ない。
話を進めていくうえでの、映画上の展開の制約みたいなものが一時的に取っ払われたおかげで、どこに逃げ込んでも不自然さやご都合感というのは薄められる。必死に逃げ回った結果、”たまたま”次の舞台に到着した、そんなニュアンスでスムーズにお話は展開される。
カーチェイスの先に
『ヒドゥン』の無軌道な逃走の決着はというと、タイヤに撃ち込まれた銃弾で車両はコントロールを失い、側道の金網を突き破り、とある建物のウインドウディスプレイに突っ込み停車します。ここまでがカーチェイスシーンと呼んでいいでしょう。
そのあとに追いついた刑事たちがクルマから銃を構えて降りてくると、突っ込んだビルはどうやらマネキンの工場か倉庫のようだ、というのがわかります。
人間に化けられる宇宙生物(と乗っ取られたストリッパー)がマネキン工場に逃げ込む、というかなりニヤける展開。
このシーンになるまで、本編中でこの建物もマネキンも一切前振りがなかったわけです。それがいきなりどんとマネキン工場という舞台が用意されても、”用意された感じ”がしない。だって、偶然の産物ですから。
これも無軌道が為せる技ではないでしょうか。面白い展開だなとは思います。
あの映画のカーチェイスもそうだったのかしら
さて、ここまで『ヒドゥン』の良質な接着剤のようなカーチェイスを観てきましたが、これによく似たカーチェイスを私は小学生の頃に観ていました。
『ターミネーター2』です。デデンデンデデン!
ゲェセン?(CV:江原正士)
『ヒドゥン』のカーチェイスは『ターミネーター2』に転用されたんじゃないかなと。そんなことをふと思いました。
ダイソンの「ダメだ、もう持ってられない……ハッハッハッ……ハッハッ…………ハッ……ハッ」のあと(わかりにくい)に3人はサイバーダイン社のビルを脱出しますね。T-800とジョンとサラの3人が大きな警察車両に乗って、そのあとにT-1000が「降りるんだ(CV:江原正士)」と言って奪ったあのヘリを操縦してきて、”カーチェイス”が始まります。
こちらでも、とにかく逃げるのが先決。サシでやっても勝てないのは、もう骨身にしみているので。
ゴールはない、ひたすら逃げる、の方程式がここにもあります。
実はあの液体窒素のトレーラーがちゃんと見切れていました。
カーチェイスからの溶鉱炉
とにかく応戦しながらも逃げ続け、ヘリからトレーラーに乗り換え……たどり着いたのは、みなさんご存知の溶鉱炉がある製鉄所
ここまで「とにかく逃げる」というシーンアクションだけで、舞台をサイバーダイン社のビルから最終地点まで押し進めたわけです。試聴ノイズもなく。
上手な脚本構成じゃないでしょうか。
これ、ちょっとした発明だったんではないかなと思いました。『ヒドゥン』が最初にやったわけではないでしょうが。
『ヒドゥン』が87年で『ターミネーター2』が91年ですから、まあ転用の件についてはなくはないかなと思ったり。思わなかったり。
『ヒドゥン』オマージュかもと思ったり
その後のマネキン倉庫での一幕はこんな感じ。
『ターミネーター2』の名場面の流れ
このあたりもオマージュ元だったのかなと感じさせる(意図的なカットの選び方)。
カーチェイスって便利
どうでしょう、カーチェイスの上手な使い方がなんとなくわかった気がします。もうちょっと真面目にカーチェイスを研究したい、そんな気持ちが沸き上がってきました。
いやあ、カーチェイスってほんっとうに便利ですよね。
そんな感じで〈『ヒドゥン』を観て思った、カーチェイスの隠れた便利さ〉でした。
おしまい。
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