【アニメ】『龍の歯医者』のブランコの”キタルキワ問題”について

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龍の歯医者

昨日、友人とご飯を食べに行きまして。
[物語論]といえばかなり大仰だけど、脚本上のキャラクター行動原理みたいな話をしてました。やたらと飛び交う「ご都合主義」というワード。耳タコでした。

エイリアン2(監督:ジェームズ・キャメロン)で生き残ったあるキャラクターが、続編にあたる『エイリアン3(監督:デヴィッド・フィンチャー)の冒頭で2と3の間に死んだことになっている件などをサカナにして、脚本の都合から発生した”退場”がアンフェアかどうか、リアリティがそんなに大事か、なんて話でした。

そこで私が先日の『龍の歯医者』をピックアップ。
死なずのブランコと”キタルキワ問題”について。

キャラクターの行動原理はやっぱり大事なのか

日本アニメ(ーター)見本市のほうは観てないので、先日の前半後半を観てという前提でよろしくお願いします。

※物語の終盤の流れについても言及するので
未視聴の方には大きめのネタバレになると思います

龍の歯医者 龍の歯医者

これからの話に必要な部分のために大まかに物語の前提を説明すると、
(作品を観た方はここからあらすじの説明なので、”舞城王太郎だし”まで飛ばしてくだしい)

この地には龍と呼ばれる常に空飛ぶ飛行生物がいて、国に危険が及ぶと力を使い国とその地の人を守ってくれます。これははるか昔、人と龍の契約が交わされていたからだそう。

強大な龍ですが、歯が弱点なのです。虫歯に弱い。なんだそりゃ。そしてその契約内容の範疇なのか、湧いてくる虫歯菌という生き物を駆除してその歯の管理をしている人間がいます。それが「龍の歯医者」です。結構な人数います。誰でも歯医者になれるわけではなくてある通過儀礼があります。

それは「死ぬ」というイニシエーション。死んでからが儀礼の本番なのですが。
ともかく一度死んだ人間が選定され、龍の歯から生まれ龍の歯医者になる。『GANTZ』でいうところの、死ぬ→小部屋で再生される→戦いに出ることになった、のようなものだとすごい乱暴に解釈ください。これでおおまかな導入部分の説明はオーケー。

そしてここからが重要かつ特殊な設定。

龍の歯医者は、自分の死期がわかるという特殊性を備えています。この能力のようなもの──作中では「キタルキワ」と語られますが、誰に打ち明けるでもないままみんな普段の生活や歯の掃除をする。漢字で書くなら「来る際」になるのか。

一方で件のブランコは、地上にいるセルパナーダ軍に雇われた傭兵部隊の隊長。主人公・ベルが地上にいた頃の同隊メンバー。口数少なく不機嫌そうな顔のとおり、腹のなかに何か秘密を隠しているように見えるキャラクターでした。

彼をピックアップするシーンでは、銃弾の雨のなかで一発も被弾しない彼を見て周りの部下も「彼には弾が当たらないんだ」みたいなことを言う。オー.ジーザス

のろのろと歩いていたり、時には突っ立ってたりしても被弾しません。これはもう何かの加護でも備わっているかのよう。

ミスリードだったのか

となると観ている側の私たちとしては「この人もキタルキワが実装されているのか?」と思いますよね。元歯医者、あるいは、龍から降りてきた人間なんじゃないか。
そう思うわけで、そう思わせるところなわけで。

キタルキワがあるから、「この戦場では死なない・死ぬ場所はここではない」という思考のもと、銃弾の雨もビビらない。そういうことなんだなと。

ブランコ隊長が「実はオレも元歯医者でな、」みたいなことは一切言いませんし、たぶん地上にいる兵士や帝国の人はキタルキワの存在をそもそも知らない。視聴者と龍の上にいる人だけが知っている情報(の前提で進んでいたはず)

龍の歯医者

話は進み──

セルパナーダ帝国軍は龍の上にのぼろうと考えておりました。強大な力を支配しようと目論んでいたのです。そしてなんやかんや(ほんとはちゃんとディテールがあります)して、龍の上に乗り込むことに成功。ブランコ一行が乗ってきた飛行機は不時着しますが、同乗者が負傷するなかブランコに傷を負ったような形跡は見られません。

「やっぱり……」
確信めいたものが視聴者の心に浮かび上がるところですね。

一方そのころ、ある虫歯菌が暴走し巨大化します。それはさながら『もののけ姫』のオッコトヌシ様のようで地上の兵士の首をスパンスパンっ! 蹂躙していきます。
それを見ていたベルと野ノ子は死体の山のなかに生きている兵士もいることから「この殺戮虫(と呼ぶ)は殺意を持った人間だけを襲っているんだ」というパターンを見つけます。

そして、主人公のベルと龍に乗り込んできたブランコが長い階段の中腹で対峙します。

二人の語りから、地上でのベルの死はブランコが深く関わっていたことを視聴者は知ります。ドラマチック。ブランコが「銃を持っても引き金を引けない腰抜けビビリが上官だとやってられん」とそう言ってベルを手に掛けたわけでね。『紫電改のタカ』の花田上飛曹みたいなやつです。

ブランコはなおも勝ち気な様子というか、死を全く予感していないんですよ。
そういう表情が視えない。
私たち観客は、「ああ、ここでもないのか」と。

「じゃあ、一体こいつをどうやって倒すんだ? この場面をベルはどう掻いくぐるんだろう」

そう思いますね。

ベルは銃をブランコに向けますが殺意を持ちません。しかし銃を向けられたブランコはベルに対して殺意を芽生えさせてしまいます。すると、ぐわーと殺戮虫が寄ってきてブランコの首が……と。ブラった、ってやつですか。

龍の歯医者 龍の歯医者

あっさりと死んだことにより、「あれ、キタルキワの設定は?」なんて考えが浮かぶ。
風呂敷が畳めてないとか伏線が回収できてないとか投げっぱなしジャーマンとか。

考えられる可能性は

  1. ブランコにはキタルキワが実装されていなかった
  2. 実装はされていたが、殺戮虫はキタルキワの持つ”際”を捻じ曲げるほどに強大だった

要点をブランコとキタルキワに合わせるとこうでしょう。

ところが、そのどちらかなのか、”正解”は提示されない。

何から何まで明言しちゃったり説明しちゃったらお話にならない。物語は途端につまらなくなる。観客の想像力が物語を面白くするものなのです。

舞城王太郎だし

馬鹿にしている気は一切ないので。ほんとに。

「坊主とは話が合わねえ」ババババッババ──なんて舞城らしくて好きですし。「肺に血が溜まって息ができなくて僕は死ぬ」なんかも実に舞城王太郎なセンテンス。

舞城王太郎だし、って回答は、作品を観るスタンスとしては絶対的に不真面目だと思いつつも、『好き好き大好き超愛してる。』『煙か土か食い物』『世界は密室で出来ている。』『九十九十九』『スクールアタック・シンドローム』なんかを読んで、私としては「理由とか全てに意味を見出すのは、もうよそうよ」なモードによくなったりする。
「なんでルンババって名前なの?」に対する解答とかいちいち要るかな?

そういうもの・そういうこともあるよな、でいい。事故死に理由とか突き詰めると辛くなるだけだと思う。原因はそりゃあるとは思うけど。

別件だけど、犯人の動機についてもそう。もう理由とか動機が何かあるみたいな風潮はやめてもいいんじゃないかって。それが善きことな風潮というか。「お金のもつれで」は理解できても「天井の模様が──」だと理解できない、故にこいつは狂っているみたいな。結局自分が納得できるか、どうかになっていっちゃったり。

それはいいや。

ともかくブランコは元歯医者でもなければキタルキワも実装されていなかったと私は判断しました。普通の人間だったと。

じゃあ、”死なずのブランコ”はなんだったの? 銃弾の雨はなんだったの? 

なんでもなかったんじゃないですか? と私は思う。たまたまこれまで被弾しなかっただけ。

アンチミステリ、アンチノベルズってそういうものだし。

部屋の壁にライフルがかかってるからなんだってんだよ!

(何を言ってるかさっぱりな方はチェーホフの銃を参照ください)

という思考の末、「舞城王太郎だし」ってひとつの回答を持っているわけです。

サツリク虫の猛威にはキタルキワで視える”際”も捻じ曲げるほどの強大で凶悪で恐ろしいパワーがあったのだ、っていう線もありっちゃありですが、あんまり舞城王太郎っぽくはない……気がする。

「龍の歯医者は死人の集まりなのか」って地上での噂についての確証を持ったのが、ベルと野ノ子と地上で会ったときなので、あの時点でブランコは龍についての情報を噂レベルでしか持っていない以上、龍の上にもいったことないだろうし、(知らないふりしていた可能性は残るけど)キタルキワは持ってないと考えるのが道理では。

だからやっぱりなんでもなかったんですよ。理由なんて。

by カエレバ

【参照リンク】

アニメ『龍の歯医者』HP
http://www.nhk.or.jp/anime/ryu/

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