Creepy Nuts『助演男優賞』について(ちょっと野暮な)解説をする

Creepy Nuts 助演男優賞 楽曲に関するメモ
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あのイントロ、あのコーラスからストーリーテリングはすでに始まっていました。

どこにも確認できないソース無しの妄言ですが、お付き合いください。

Creepy Nuts『助演男優賞』のサンプリングとMVの視聴後記。

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『助演男優賞』のサンプリングについて

助演男優賞のイントロで「Ah~、Ah~」ってのがあるじゃないですか。

あれってAbbaの『Dancing Queen(ダンシング・クイーン)』をサンプリングしてるとみてまず間違いないと思います。え、Abba知らない? そこは押さえとこうよ。

ダンシング・クイーンの歌詞をすごくかんたんに要約すると、

「あなたは若くてかわいい17歳、あなたの前にチャンスが訪れて一生に一度の経験をするわ。さあ、ダンシング・クイーン(主役)の座を射止めるのよ」

というもの。前向きで背中を教えてくれる曲です。

それがですよ。

助演男優賞』のイントロでは「プツン」という針飛び音でピアノの旋律が消える。

つまり、「こんなの全部です!」って松永は言ってるのではないか。こんなものフィクションですよお馬鹿さんと。主役なんて、そうそう皆がなれるようなものじゃない。

そんなのは甘い言葉であると。

「オレたちは映画スターやロックスターになれると信じ込まされて育ってきた」と言ったタイラー・ダーデンのこともちょっと思い出しました。

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Abbaが使われた『マンマ・ミーア!』を知っているか

Abba繋がりで、『マンマ・ミーア!』って映画があるんですけど、なんかみんなで踊ったりする痛々しい映画でした。時代ですね。

マンマ・ミーア

マンマ・ミーア
『マンマ・ミーア!』より

ちょっとMVのダンスっぽいですね。

これはメリル・ストリープが主演のミュージカル映画なんですが、ABBAの楽曲がいっぱい使われていて、『さらば青春の光』におけるThe・Whoのような関係性だと言えばいいでしょうか。ちょっと違うか(ぜんぜん違う

まあそんなに面白い映画ではないです。

いつかの助演男優賞、ピアース・ブロスナン

『マンマ・ミーア!』の作中でメリル・ストリープの娘の父親候補のうちの1人(ややこしい)として出演しているのが、ピアース・ブロスナン

この年(2008年)、めでたくラジー賞の最低助演男優賞を受賞しています。ラジー賞っていうのは、その年に映画界で一番スベったやつとざっくり捉えてもらえば問題ないです。

そんなピアース・ブロスナンの日本における代名詞といえば、ジェームズ・ボンド及びニンテンドー64の大ヒットゲーム『ゴールデンアイ007』ではないでしょうか。

「助演男優賞」がこんなところで繋がっていたとは……(ソースなし)

ということで、Creepy Nuts『助演男優賞』のリフトラックのモチーフになってんじゃないかと勝手に思っている『ゴールデンアイのテーマ』をお聴きください↓↓

このうえで助演男優賞ラップすると存外気持ちいいです。練習用トラックにどうぞ。ゲームのサントラでサイファー、意外と流行るかも。

「お・ま・た・せ」のところで銃声が鳴ってたのも007繋がりと考えると腑に落ちる。なるほどね。なんてね。

そんな深読みもまた楽しい……「助演男優賞」のそれっぽいトラック話でした。

続いて、MVのお話とハイコンテクストなネタなどの雑感です。

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『助演男優賞』MVの構成/演出について

『助演男優賞』のMV公開当初、映像に対して私はどちらといえば首かしげな評価でした。ふたりの表現したい真意がまだ見えず、手放しで賞賛することができなかった。

消化不良を起こした理由としては「またこの手合いのPVか……」というのが端的なところ。

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)お二人の面白さって、あの人格から滲み出てくる”人をくったような”リリックやギミック、ユニークな着眼点だと思うんです。「いやあ、相変わらずゆがんでるなあ」というウヒヒな楽しみ方を期待しておりました。

だからこそ思うのは、MV上の演出とは言えプロデューサー像なる外部要素が出てくる演出は悪手ではなかったかと。

未視聴の方がいるかもしれんので、ネタとしてもアツイうちにドゥゾー。

MVのストーリィと歌詞との相違

MVのイケメン2人とCreepy Nutsのふたりって「主演・助演」の関係じゃなくて、影武者になっちゃってないかなと思うんですよ。助演と影武者ってまったくの別もんでしょ。

そこに皮肉ネタ・揶揄ネタとしては何番目のドジョウかってくらいの「悪っぽいオトナにいいようにされちゃうウブな僕ら」的展開。この時点でテーマがぶれてませんかと。

もちろん見方を変えれば、受け止め方を凝れば、「いまのセールやヒットっていうのはこういう流れで形成されているんです。どうです? つまらない?」という投げかけともとれる。メジャーデビュー指南のプロトモデルと言ってもいいかもしれない。そういうマインドは彼らの中にずっとあったんだと思います。今もあるだろう。

汚く映るモブたち

しかし、流行りに乗っかって持て囃し、何かやらかした咄嗟に右から左の手のひら返し。コンテンツを周りの人とのつながりを保つために消費するヤツら。そう、ヤツら。

列からはみ出てはいないかとビクビクしている”ステータス第一主義”人間の多いこと多いこと。

【踊ってみた】動画をUPしていた奴らも、結局のところはトレンドに乗っかることで所属の欲求承認欲求を満たしたいだけですからね。反吐が出る。

しかし映画のヒット現象にも通ずる部分ではあるが、こういった人種の自発的な行動による情報の拡散が効率よく作用しているのはひとつの事実であるのは認めるほかない。

それでも、それすらも作り手の手の上だと思えば、少しは楽になれたりもします。ムカついてもらいたい対象がしっかりムカつくように作られているのは、評価しないといけないですしね。

ビルを追い出されたあとのふたりの笑みが、彼らの答えを表したモノだと思いました。

曲としての『助演男優賞』は良いですよ

そんなMVがバイアスになっていたからなのか、どうも心の大ヒットまでいかない。サビがしっくりこないのかな、と思っています。サビって言っちゃったよ。

「お・ま・た・せ!」からフックに戻る気持ちいい流れが、MVの演出上ブレイクになっているのがもったいなかった。あそこはそのまま突っ切ってカムバックでしょう。そこが”なんか惜しい”に繋がっていたのかなといまは感じています。

それでも評価を繋ぎとめていたのは、やっぱりR-指定のワード選びのセンス/巧みな構成の完成度が大きいのではないか。

ハイコンテクストなワードってなんだ

「田岡が見逃した不安要素」「ブラックレイン 松田優作」このあたりが特にいい。くすぐられる。松田優作とCreepy Nutsって、けつの「あっう」の音しか踏んでないのに強引さが苦にならない不思議。

この2つ(に限らないが)は、あのブログの解説としてうまく機能していたハイコンテクストな用語というもの。

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) の『 助演男優賞』のコレじゃない感について - ドリップ式映画・資格日記
フリースタイルダンジョンなどで活躍するR-指定とその相方のDJ松永のユニット、、Creepy NutsのMVについては、過去2作品は非常に楽しく見させてもらったのだけど、今回の新曲のMVは乗れないなぁと感じてしまった。 新曲『助演男優賞』の...

つまり、知ってる人ならすぐにピンとくるけど知らない人はなんのことかわからないやや高度なワード/文脈のことを指す。

例えば「田岡が見逃した不安要素」

「田岡が見逃した不安要素」とは、漫画『SLAM DUNK』に登場するキャラクター、木暮公延(こぐれきみのぶ)を指しています。

「見せ場はこんぐれい、きみのぶん」でちゃっかり韻を踏んでいるのである

主人公・桜木花道のチームメイトでもあり、湘北高校バスケ部の控え選手だった彼は、陵南高校の監督:田岡茂一から「ノーマーク(戦力外扱い)」と侮られながらも、陵南戦では決勝点となる3Pシュートを決めるなど、勝利を決定づける活躍を見せました。

詳しくは木暮wikiを参照してください。

例えば「俺が森山なら後者」

「明るい未来、暗い未来」とは将来的な意味の未来と、役者である森山未來がかかっているわけです。ギャグの説明をしているみたいで恥ずかしくなってきた

明るい未来? 暗い未来? 俺が森山なら後者 モテキなんさ来る訳ねぇじゃん 各駅停車 苦役列車 Let’s Go

「明るい」と「暗い」は森山未來が演じた、役柄(とその人物が背負う人生)が大きく異なるふたりの人物を指しています。

  • 明るい未来は『モテキ』で長澤まさみとイチャついている藤本幸世
  • 暗い未来は『苦役列車』でその日暮らし、せんべい布団で精を二度放つくらいしかやることのない日雇い労働者の北町貫多

そして、俺は後者の森山だ──モテ期など来ない、ロクでなし──となぞらえて歌うのがR-指定。

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森山未來の受賞歴

森山未來の屈指の代表作『世界の中心で、愛をさけぶ(私がスクリーンで初めて森山未来を観測した映画である)は2004年の映画ですが、この年の森山未来は、

  • 第47回ブルーリボン賞:新人賞
  • 第28回日本アカデミー賞:新人俳優賞、優秀助演男優賞

──のふたつを受賞しています。

ちなみに、2011年の毎日映画コンクールでは『モテキ』で主演男優賞、2013年の日本アカデミー賞では『苦役列車』で優秀主演男優賞、同年同賞『北のカナリアたち』で優秀助演男優賞を獲ってます

などなどここにも助演賞の繋がりが。

ハイコンテクストが生む共有の安心感や快感

必死にやりこんだゲームや読み漁った漫画があったとしましょう。

そのときはもちろん楽しいのですが、入社などで環境が変わるとその経験はまったく役に立たず、それらを知らないほかの人間は自分よりもしっかり社会生活に順応できている状況を前にすると、「漫画ばっかり読んで、なぜオレはあんなムダな時間を……」と悲観することになったりします。

しかしそこに”カワイイ”同僚の女の子が現れ、

「みんな堅い話ばっかりでつまらない。あーあ、誰か松本大治先生の『Desperado』について話せる人、いないかなー

とくれば、漫画を読んでいた時間や経験は無駄ではなかったと肯定感が得られるわけです。これがハイコンテクストの共有による安心感。自分が好意を抱いている相手だと尚更効果が上がります。

さらに、ハイコンテクストをクリアした人間はその情報の認知度(あるいはマイナー度)もおおよそながら推測できるため、ネタがわからない人間像を想定しやすく、”わかっている自分”に優越感も。

書いてて自分は歪んでるんじゃないかと思ってきました

R-指定の緻密な歌詞は、こういったナードマインドをびんびん刺激する構造になっていると。R-指定のリリックに限ったことじゃないですが。dig精神。ルーツの重視。

HIPHOPにさして明るくない私が、RHYMESTERの”オタクな佐々木”こと宇多丸師匠にとくに惹かれる理由もこの辺にあります。映画の話も漫画の話もすべて教養の範疇だと思っているので、R-指定にはただただ「勤勉だなあ」と感心してしまう。

終わってみれば、繰り返して中身がわかってくれば、Creepy NutsはちゃんとCreepy Nutsしてましたよ。

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おしまい。

関連リンク

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)公式サイト

コメント,ご意見など (中傷発言はNO)

  1. はじめまして、拝読させていただきました。
    自分は「旬なネタいっぱいのMVだな~」くらいの感想で
    裏方すぎるっていう部分に気づけてなかったです…
    確かに助演男優ではなくゴーストライター的なポジションですね。

    1点、確認させて頂きたいのですが文章中に出てくる”あのブログ”は
    折田(兄)さんが書かれたものでしょうか?(恐らく違うとは思いますが…)

    なぜ確認したかったかというと、私は”あのブログ”に書かれていた内容に
    ほぼ納得しておりません。

    MVについて批判をしているように見せかけ
    途中からトラックの良し悪しもMVの評価に含めだしたにも関わらず
    リリックにまったく触れないというやり方を不自然だと感じたからです。

    折田(兄)さんも書かれている通り、
    随所に分かる人には分かる表現が仕込まれているこのリリックを聴いて
    「ハイコンテクストなものが消え失せた」とは決して言えないと私は思います。
    “あのブログ”を書いた方が理解できていないだけなのでは?
    という気持ちでいっぱいでした。

    個人的には”今か今かと待ちわびた”juswannaのBlackBox、
    “見くびるな見下すな”DABOのレクサスグッチ(恐らく)の辺りですね。
    もし”あのブログ”を書いた方がjuswannaは誰もが知っているミュージシャンで
    ローコンテクストな引用だというのであれば何も言えませんが…。

    特に何の不満も持たず助演男優賞を楽しく聴いていたので
    “あのブログ”に対して非常に憤ってしまい
    偶然通りかかったブログにコメントを残してしまいました。

    長文、大変失礼致しました。

    • jkさん、遅くなりました。スパムのフォルダに流れ着いており発見が遅れました。
      すみません。真摯な憤りありがとうございます。
      まず”あのブログ”(我ながらめんどくさい表現だなあ)についてですが、作成者は私ではありません。他にアルバムや助演男優賞について触れている方がいらっしゃるか検索中、検索上位に出ていたので目にした方も多いかと思い引用・リンクさせていただきました。

      MVをマイナスに誘導する手前、トラックまで一緒くたに「こだわりが感じられない」と抽象的なワードを使いここだけ少ない言及でもってのアプローチはやや横暴ですね。「こだわり」なんてものはそれこそ文字数を費やして書いた人と見た人の共通の認識に変えていかないといけないものですから。

      私はあの記事に対して、物語のつまらなさを”勧善懲悪的”と捉えていた部分と、トラックがストーリを語るための道具のような扱い、のふたつが気になってました。言わんとすることが読み取れない。(「お・ま・た・せ」のカットのあたりでしょうか?)
      影武者だなんだ当記事を書いたあとのタイミングでCreepy Nutsのインタビュー記事を読んだのですが、あのイケメン二人は”二代目Creepy Nuts”ということらしいのです。
      伝わんねぇよ(ボソ

      といったことを踏まえつつ。

      あの記事は作成者様がMVについて感じたものを綴っていたので、「ハイコンテクストが消え失せた」はあくまでもMVのなかに映しているものMVのなかで流れているお話にかかっているのです。
      それはオリゴン一位の権威主義であったり、外見の良さこそ正義だったり、テコ入れのアイデアが一辺倒なプロデューサーだったり流行りに乗っかる女の子だったり手のひら返し等のことを指し、と同時に相対的には批判するスタンス、つまり物語のオチも(もはや)ローコンテクストの部類だと。二番煎じとローコンテクストは必ずしも一致しないんですが、とにかくそういう主張なんだと思いました。

      juswannaをローコンテクストというのはなかなか攻めてますね……。
      結局はリスナーをどう捉えるか、ということかと。「分かる人にはわかる」と「知ってて当然」の境界線は実は非常に曖昧なんだと思います。
      Lick-Gが”ビーツに弾く韻”引用をしたときの会場の沸きの少なさも、「お前らHIPHOP好きなんやったらいまの沸くやろ。いや、ワンバース目から沸くやろ」という思いも「HIPHOP一年生ならまあしょうがないか」の思いもありました。私自身二年生に上がれてるか不明ですが。
      前者のような高圧的な接し方が行き着くのは草食系ヒエラルキーであり、語り合うだけ詮無しかななんて思ったり。
      楽しいんですけどね。ちょっと脱線しました。

      改行がヘタですみません。

  2. 「田岡が見逃した不安要素」は三井ではなくて木暮の事ではないですか?

    • ばんこさん、ご指摘ありがとうございます。
      おっしゃる通り「田岡が見逃した不安要素」は小暮のことですね。スリーポイントに引っ張られて三井のことと思ってました。昔の記憶のまま粗略で喋ってはいけませんね……。
      修正します。

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