【音楽】Creepy Nuts『助演男優賞』について(ちょっと野暮な)解説をする

Creepy Nuts 助演男優賞 楽曲類α

助演男優賞』の発売日が水曜で、家に届いたのが土曜日で、完全に話題の波に乗り遅れた感があります。逃した魚と波は大きいと言いますか……つまり『ビッグ・ウェンズデー』ってことですね(うまいこと言うね

アルバムを聴く前までは「『みんなちがって-』のときも記事を書いたし、今回も何か書きたいな、何か高価な、何書こうかなー」と考えていたんですが、いざアルバムを聴くとどうにも筆を持つ腕が重い。『教祖誕生』と『未来予想図』にまこと耳が痛い。

 

youtubeのコメント欄に湧くクソ野郎や歌詞をまんま転載して小遣い稼ぎするような著作権リテラシー皆無の田吾作どもよりはまともな神経と身のわきまえを持ち合わせていると自負していただけに「毎度あり、広告収入」はけっこう心に効きました。

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『助演男優賞』のMVについて

助演男優賞のMV公開当初、MVに対して私はどちらといえば首かしげな評価で、ふたりの表現したい真意がまだ見えず手放しで賞賛することができなかった。

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / 助演男優賞【MV】

消化不良を起こした理由としては「またこの手合いのPVか……」というのが端的なところ。あとイケメンが持て囃されているところ。

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)のお二人の面白さって、人格から滲み出て来る”人をくったような”リリックやギミック、ユニークな着眼点だと思うんです。

「いやあ、相変わらずゆがんでるなあ」というウヒヒな楽しみ方を期待していたのに。だからこそプロデューサー像なる外部要素が出てくるのは悪手だったと。MV上の演出といえど。

 

参照リンク:こっちは最高にウヒヒできたMV作品になっていた『みんなちがって、みんないい』についての記事。

【音楽】Creepy Nuts『みんなちがって、みんないい。』が心地よく面白い
「みんなちがって、みんないい」といえば、谷川俊太郎先生と並び、小学生の国語の教科書ではたいてい載っている金子みすゞ先生の詩『私と小鳥と鈴と』の締めのヴァースです。 なつ「ヴァースとか言うな」 (いまの教科書事情はわからないので、もう載っ...

歌詞とMVの物語には得も言われぬ相違がある

MVのイケメン二人とCreepy Nutsのふたりって「主演・助演」の関係ではなくて、実質的には影武者なんですよ。助演と影武者ってまったくの別もんでしょ。

そこに皮肉ネタ揶揄ネタとしては何番目のドジョウかと怒りの腕まくり「悪っぽいオトナにいいようにされちゃうウブな僕ら」的展開。この時点でテーマがぶれてる。出したいものを少し欲張ったせいかと。

オトナを滑稽に描いて”こいつらわかってないなぁ”感が出るのが毎度ながらまた卑怯なんだ。

もちろん見方を変えれば、受け止め方を凝れば「いまのセールやヒットっていうのはこういう流れで形成されているんです。どうです? つまらない?」という投げかけともとれる。

流行りに乗っかって持て囃し、何かやらかした咄嗟に右から左の手のひら返し。列からはみ出てはいないかとびくびくしている”自分のステータス第一主義”人間の多いこと多いこと。

ジャスティンのファンで「love(はあと)」なんてコメントしたやつも、【踊ってみた】で動画をUPしていた奴らも、結局のところはトレンドに乗っかることで所属の欲求承認欲求を満たしたいだけですからね。反吐が出る。しかし映画のヒット現象にも通ずる部分ではあるが、こういった人種の自発的な行動による情報の拡散が効率よく作用しているのはひとつの事実であるのは認めるほかない。

結局はネットを使う人間のリテラシーがどうか、という結論に帰結するだけなのでこの辺でやめます。

ビルを追い出されたあとのふたりの笑みが、彼らの答えを表したモノだと思いました。

どっちつかずの落とし方ですまない。

曲としての『助演男優賞』の完成された部分

そんなMVがかなりのバイアスになっていたからなのか、どうにも心の大ヒットまでこない。
サビがしっくりこないのか、と思っている。サビって言っちゃったよ。

【追記】
MVの演出上、「お・ま・た・せ」からフックに戻る気持ちいい流れがブレイクになっているのがもったいなかったなと。そこが”なんか惜しい”に繋がっていたのかなといまは感じています。はい手のひら返し。
【追記終わり】

それでも評価を繋ぎとめていたのは、やっぱりR-指定のワード選びのセンスが大きい。

ハイコンテクストなワード

「田岡が見逃した不安要素」「ブラックレイン 松田優作」このあたりが特にいい。松田優作とCreepy Nutsって、けつの「あっう」の音しか踏んでないのにこの説得力は流石。

この筆頭二つは、あのブログ(※)の解説としてうまく機能していたハイコンテクストな用語というもの。つまり、知ってる人ならすぐにピンとくるけど知らない人はなんのことかわからないワードのことを指す。「田岡が見逃した不安要素」とは、ジャンプ史上最高峰ともいえる”ワンサゲンを成し遂げた男”三井寿 のこと。

【2017/2/9追記】
ありがたいコメントのご指摘どおり、「田岡が見逃した不安要素」は三井ではなくてめがね君こと木暮公延のことでした。こんな初歩的取り違い。昔の記憶のまま喋ってはいけませんね……。失礼しました。
【追記おわり】

【2017/3/2追記】
juswannaやDABOがローコンテクストなのかどうか問題(問題でもない)をコメントにていただいたりしまして、私も一年生なのでヒップホップIQも低いですし、そっち方面を気持ちよく挙げられなくて恐縮なのですが、記憶の引き金321からの流れがMUROの『CHAIN REACTION』のGORE-TEXを想起させんでもない。ってのはどうですか。あ、無理してもうた。
【追記終わり】

あのブログこと
Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) の『 助演男優賞』のコレじゃない感について

共有による安心感、という心理概念

必死にやりこんだゲームや読み漁った漫画があるとする。そのときはもちろん楽しいのだが、入社などで環境が変わるとその経験はまったく役に立たず、それを知らないほかの人間は自分よりもしっかり社会生活に順応できている状況を前にすると、「漫画ばっかり読んで、自分はなんて無駄な時間を……」と悲観することになる。しかしそこにかわいい同僚の女の子が現れ「みんな堅い話ばっかりでつまらない。あーあ、誰か松本大治先生の『Desperado』について話せる人、いないかなーとくれば、漫画を読んでいた時間や経験は無駄ではなかったと肯定感が得られる。

これが共有による安心感。自分が好意を抱いている相手だと尚更効果がある。

さらに、ハイコンテクストをクリアした人間はその情報の認知度(あるいはマイナー度)もおおよそながら推測できるため、ネタがわからない人間像を想定しやすく、”わかっている自分”に優越感を持てる。こういったナードマインドを刺激する構造になっている。R-指定のリリックに限ったことじゃないですが。HIPHOPにさして明るくない私が、RHYMESTERの”オタクな佐々木”こと宇多丸師匠にとくに惹かれる理由もこの辺にある。映画の話も漫画の話もすべて教養の範疇だと思っているので、R-指定にはただただ「勤勉だなあ」と感心してしまう。

単語のみでの連想

上の「ブラックレイン 松田優作」もそうで、それに続く「ロックフェスでのCreepy Nuts」にもいえるんですが、「~が、どう」とか述語が欠けまくりで文脈としては完全に不完全なんですよ。そういうのが歌詞の端々にある。「ダークナイトで言えばジョーカー」というガイドがあるから「ブラックレイン (で言えば)松田優作」という解釈はたやすくできるんですがこれはどういう脳の作用なんでしょうか。不思議だ。

で、この感覚って以前何処かで……、と記憶を遡っていたらRHYMESTERの『BIGMOUTH1&2』でのDさんのライミング論法がそれに近いのかなと。(Mummy-Dさんドラマ出演おめでとうございます。あんまりフレームインの機会がなくてちょっぴり寂しいです)

RHYMESTER – BIG MOUTH 1&2 (Live)

しかしこのDさんの人名逆さま名人芸は素晴らしい。

イントロのサンプリングについて

助演男優賞のイントロで「Ah~、Ah~」ってのがあるじゃないですか。

あれってAbbaの『Dancing Queen(ダンシング・クイーン)』をサンプリングしてるとみてまず間違いないと思います。え、Abba知らない? そこはおさえとこうよ。

Abba – Dancing Queen (Official Video)

ダンシング・クイーンがどういう歌詞だったかとすごくかんたんに要約すると、

「あなたは若くてかわいい17歳、あなたの前にチャンスが訪れて一生に一度の経験をするわ。さあ、ダンシング・クイーン(主役)の座を射止めるのよ」

というもの。前向きで背中を教えてくれる曲です。

それがですよ、ノイズ混じりに「プツン」という針飛び音とともにピアノが消える。

つまり、「!夢です!こんなの全部!」ってことです。こんなものフィクションですよーと。主役なんて、そうそう皆がなれるようなものじゃないの。

そんなのは甘い言葉であると。

タイラー・ダーデンだって言ってましたよ。「オレたちは映画スターやロックスターになれると信じ込まされて育ってきた」って。

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(名作なのでぜひ観てみてね)

裏の裏の助演男優賞

ABBA繋がりで、『マンマ・ミーア!』って映画があるんですけど、なんかみんなで踊ったりする痛々しい映画でした。

マンマ・ミーア マンマ・ミーア

メリル・ストリープが主演のミュージカル映画なんですが、ABBAの楽曲がいっぱい使われていて、『さらば青春の光』におけるThe・Whoのようなものだといえばいいですかね。ちょっと違うか(ぜんぜん違う

で、『マンマ・ミーア!』の作中に父親候補の一人としてピアース・ブロスナンが出て来まして、この年(2008年)のラジー賞の最低助演男優賞を受賞しています。ラジー賞っていうのは、ざっくりした説明だと、その年に映画界で一番スベったやつと捉えても問題はないです。

そんなピアース・ブロスナンの日本における代名詞といえば、ジェームズ・ボンド及びニンテンドー64の大ヒットゲーム『ゴールデンアイ007』ではないでしょうか。

ということで、メインリフのモチーフになってんじゃないかと思わしき、ゴールデンアイのテーマをお聴きください↓↓

GoldenEye 64 Full SoundTrack

リズムも近いし、このうえで助演男優ラップすると意外に気持ちいい。今度知人に提供しよう。だから「お・ま・た・せ」のところで銃声が鳴ってたんだな。なるほどね。なんてね。

そんな深読みもまた楽しい……助演男優賞のそれっぽい話でした。

 

トレーラーでピンとこなかった方、不安になるなかれ。

Creepy NutsはちゃんとCreepy Nutsしてましたよ。

参照リンク

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)公式サイト

コメント,ご意見など (中傷発言はNO)

  1. はじめまして、拝読させていただきました。
    自分は「旬なネタいっぱいのMVだな~」くらいの感想で
    裏方すぎるっていう部分に気づけてなかったです…
    確かに助演男優ではなくゴーストライター的なポジションですね。

    1点、確認させて頂きたいのですが文章中に出てくる”あのブログ”は
    折田(兄)さんが書かれたものでしょうか?(恐らく違うとは思いますが…)

    なぜ確認したかったかというと、私は”あのブログ”に書かれていた内容に
    ほぼ納得しておりません。

    MVについて批判をしているように見せかけ
    途中からトラックの良し悪しもMVの評価に含めだしたにも関わらず
    リリックにまったく触れないというやり方を不自然だと感じたからです。

    折田(兄)さんも書かれている通り、
    随所に分かる人には分かる表現が仕込まれているこのリリックを聴いて
    「ハイコンテクストなものが消え失せた」とは決して言えないと私は思います。
    “あのブログ”を書いた方が理解できていないだけなのでは?
    という気持ちでいっぱいでした。

    個人的には”今か今かと待ちわびた”juswannaのBlackBox、
    “見くびるな見下すな”DABOのレクサスグッチ(恐らく)の辺りですね。
    もし”あのブログ”を書いた方がjuswannaは誰もが知っているミュージシャンで
    ローコンテクストな引用だというのであれば何も言えませんが…。

    特に何の不満も持たず助演男優賞を楽しく聴いていたので
    “あのブログ”に対して非常に憤ってしまい
    偶然通りかかったブログにコメントを残してしまいました。

    長文、大変失礼致しました。

    • jkさん、遅くなりました。スパムのフォルダに流れ着いており発見が遅れました。
      すみません。真摯な憤りありがとうございます。
      まず”あのブログ”(我ながらめんどくさい表現だなあ)についてですが、作成者は私ではありません。他にアルバムや助演男優賞について触れている方がいらっしゃるか検索中、検索上位に出ていたので目にした方も多いかと思い引用・リンクさせていただきました。

      MVをマイナスに誘導する手前、トラックまで一緒くたに「こだわりが感じられない」と抽象的なワードを使いここだけ少ない言及でもってのアプローチはやや横暴ですね。「こだわり」なんてものはそれこそ文字数を費やして書いた人と見た人の共通の認識に変えていかないといけないものですから。

      私はあの記事に対して、物語のつまらなさを”勧善懲悪的”と捉えていた部分と、トラックがストーリを語るための道具のような扱い、のふたつが気になってました。言わんとすることが読み取れない。(「お・ま・た・せ」のカットのあたりでしょうか?)
      影武者だなんだ当記事を書いたあとのタイミングでCreepy Nutsのインタビュー記事を読んだのですが、あのイケメン二人は”二代目Creepy Nuts”ということらしいのです。
      伝わんねぇよ(ボソ

      といったことを踏まえつつ。

      あの記事は作成者様がMVについて感じたものを綴っていたので、「ハイコンテクストが消え失せた」はあくまでもMVのなかに映しているものMVのなかで流れているお話にかかっているのです。
      それはオリゴン一位の権威主義であったり、外見の良さこそ正義だったり、テコ入れのアイデアが一辺倒なプロデューサーだったり流行りに乗っかる女の子だったり手のひら返し等のことを指し、と同時に相対的には批判するスタンス、つまり物語のオチも(もはや)ローコンテクストの部類だと。二番煎じとローコンテクストは必ずしも一致しないんですが、とにかくそういう主張なんだと思いました。

      juswannaをローコンテクストというのはなかなか攻めてますね……。
      結局はリスナーをどう捉えるか、ということかと。「分かる人にはわかる」と「知ってて当然」の境界線は実は非常に曖昧なんだと思います。
      Lick-Gが”ビーツに弾く韻”引用をしたときの会場の沸きの少なさも、「お前らHIPHOP好きなんやったらいまの沸くやろ。いや、ワンバース目から沸くやろ」という思いも「HIPHOP一年生ならまあしょうがないか」の思いもありました。私自身二年生に上がれてるか不明ですが。
      前者のような高圧的な接し方が行き着くのは草食系ヒエラルキーであり、語り合うだけ詮無しかななんて思ったり。
      楽しいんですけどね。ちょっと脱線しました。

      改行がヘタですみません。

  2. 「田岡が見逃した不安要素」は三井ではなくて木暮の事ではないですか?

    • ばんこさん、ご指摘ありがとうございます。
      おっしゃる通り「田岡が見逃した不安要素」は小暮のことですね。スリーポイントに引っ張られて三井のことと思ってました。昔の記憶のまま粗略で喋ってはいけませんね……。
      修正します。

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